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日外会誌. 92(6): 707-715, 1991


原著

閉塞性黄疸時における交感神経系の反応特性に関する実験的研究

旭川医科大学 第2外科

近藤 啓史 , 葛西 眞一 , 水戸 廸郎

(1990年7月12日受付)

I.内容要旨
閉塞性黄疸時には循環動態の異常が指摘され,しかも術後ショック,腎不全などの合併症が発生しやすく,致死的であることはよく知られている.そこでこれらの原因としての黄疸時における交感神経系の異常について検討した.雑種成犬を用い,黄疸モデルは総胆管結紮3週後とし,比較対照は未処置群,sham群とした.ネンブタール麻酔後に,1)動脈圧,2)心拍出量(CO),3)心係数(CI),4)心拍数(HR),5)末梢血管抵抗(TPR),6)左室仕事量(LVSW)などの循環動態と,生化学検査,血中カテコラミン濃度,胆汁酸濃度などを測定した.次に交感神経系の反応をα,β作動系に分離し,α,β受容体刺激剤,遮断剤による反応を検討した.パラメーターは,α作動系で平均動脈圧(MAP),β作動系ではHRの変化とした.
循環動態を検討すると,未処置群,sham群と黄疸群のMAPは各々136±14,137±4,116±15mmHg,CIは,147±17,150±5,171±21ml/min・kg,TPRは,0.94±0.13,0.91±0.02,0.68±0.06mmHg・kg・min/ml,LVSWは1.6±0.3,1.5±0.1,1.2±0.2ml・mmHgであり,黄疸群でMAPは有意に低下し,CIは有意に増加,TPRは減少する,いわゆるhyperdynamicな循環動態を呈した.またLVSWは黄疸群で有意に低下し,左室不全を示唆した.β受容体刺激剤による反応は黄疸群で有意に低下した.α受容体刺激剤投与では,黄疸群はsham群に比較し一部低反応であった.一方黄疸時の血中ノルエピネフリン濃度は有意に上昇しており,血中総胆汁酸の著明な増加,タウリン抱合体を中心とした胆汁酸の増加もみられた.
以上より,閉塞性黄疸時には潜在性の左室不全を含む循環動態の異常と交感神経系の異常が認められ,これに手術,麻酔,輸液のアンバランスなどの過大侵襲が加わると容易に術後ショックが引き起こされることが推定された.

キーワード
閉塞性黄疸, hyperdynamic な循環動態, 左室機能不全, 交感神経機能, 術後ショック


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