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日外会誌. 92(6): 645-651, 1991


原著

残胃癌発生におよぼす胆汁の影響に関する実験的研究

久留米大学 医学部第1外科学教室(主任:掛川暉夫)

平木 幹久

(1990年5月29日受付)

I.内容要旨
胆汁の胃内逆流が胃癌発生過程で促進的に働いているか否かを検討するため,ウィスター系雄性ラットに20%希釈ヒト胆汁液と発癌物質MNNG 50µg/mlの異時性経口投与を行い,ラット腺胃での癌発生率と病理組織所見,隆起性病変の発生率を検索した.実験群はI群:発癌剤単独投与群,II群:ヒト胆汁液投与後発癌剤投与群,lll群:発癌剤投与後ヒト胆汁液投与群,IV群:ヒト胆汁液単独投与群の4群とした.その結果,発癌頻度はII群で38%(3/8)ともっとも高く,III群では25%(2/8)で,I群およびIV群では癌腫の発生はみられなかった.また肉眼的に認められた隆起性病変のほとんどは腺腫性増殖で発生頻度はII群50%(4/8),III群38%(3/8),I群17%(2/12),IV群0%(0/12)であった.本研究では50µg/mlと低濃度の発癌剤を用いた発癌実験を行い,発癌剤単独投与では癌腫の発生はみられなかったが,20%に希釈したヒト胆汁液の併用投与により癌腫を発生することが証明できた.また,発癌初期の胃粘膜の変化を観察する目的でラットにMNNGおよびヒト胆汁を投与し経時的に腺胃粘膜の組織学的所見と3H-TdRでのミクロオートラジオグラフィー法による検討を行い,MNNG投与初期の粘膜の細胞動態がヒト胆汁液投与によって惹起される所見と酷似していることが判明した.以上より,残胃粘膜において胆汁液の胃内逆流は腺窩上皮の増殖細胞の増加を引き起こし,癌発生の備備状態を作り上げていることが考えられた.

キーワード
発癌, 残胃癌, 胆汁酸, MNNG,  


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