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日外会誌. 92(5): 567-576, 1991


原著

脾自家移植後の感染免疫能
―特に移植部位,血流量,重量と抗体産生能について―

山梨医科大学 第1外科(指導:菅原克彦教授)

丸山 敦 , 関川 敬義

(1990年5月12日受付)

I.内容要旨
脾臓摘出後に易感染性が生じ,時に重症感染症が報告され,脾損傷時には脾温存術あるいは脾自家移植術が試みられるようになった.しかし自家移植脾の適切な移植部位,移植量及び感染免疫能の回復時期に関してはなお議論があり,これらの点について検討した.
20週齢マウスの脾臓を摘出し,その30%,50%を大網に包埋した腹腔内移植群(30%,50%IP群),50%を腹壁皮下に移植した皮下移植群(50%SC群),及び脾摘群(SPX群),Sham群の計5群を作成した.術後1,4,8週に,①移植後の重量,②移植脾の血流量(水素ガスクリアランス法),③病理組織所見,④免疫グロブリン産生能(RID法),⑤肺炎球菌ワクチン接種後の抗体産生能(ELISA法),及び⑥術後1,8週に肺炎球菌5×103個静注後の生存率を検討した.
その結果,①移植脾の重量は,術後1週では低下したが,8週では,30%,50%IP群,SC群で移植量の161%,143%,103%に増加していた.②移植脾の血流量はIP群において術後4週でSham群の86%まで回復してきたが,SC群の回復は遅れた.③病理組織所見は,IP群において8週でほぼ正常群と変りなく回復していた.④IgG,IgAは各時期,各群で差はなかった.IgMは術後1週でSham群に比しSPX群,移植群ともに低値を示したが,4週後には全群で回復した.⑤ワクチン接種後のlgM及びIgG抗体価は,術後4週ではSPX,IP,SC群ともに低値を示したが,8週になると移植群特に30%IP群でSham群のIgM76.6%,IgG60.1%と上昇した.⑥肺炎球菌静注後の14戸生存率は術後1週ではSPX群,IP群,SC群ともに0%であったが,8週では30%IP群66.7%,50%IP群83.3%と著明に上昇した.
以上よりマウスの脾全重量の30%以上を腹腔内に移植することで良好な成績を得た.又,移植後8週を経過すると,脾臓の感染免疲能が発現することが示唆された.

キーワード
脾自家移植, 移植脾血流量, 移植脾重量, 肺炎球菌抗体産生能, 肺炎球菌ワクチン


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