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日外会誌. 92(5): 562-566, 1991


原著

膵癌の肝転移発現時期に関する考察
―臨床例および培養細胞の増殖速度からみて―

東北大学 医学部第1外科

網倉 克己 , 小針 雅男 , 松野 正紀

(1990年5月22日受付)

I.内容要旨
膵癌切除術後の死因を検討すると,再発死亡例の82.1%に肝転移再発を認め,肝転移が膵癌の予後を想定する重要な因子であると思われる.膵癌細胞の術中撒布あるいは術前からの不顕性肝転移巣形成の可能性があるが,本研究では膵癌培養細胞4株(PR-9,36,47,59)の発育速度および,切除術後肝転移再発した膵癌症例の肝転移巣計測から腫瘍発育速度をdoubling time(以下DT)で表わし比較検討し,さらにこのDTを用いて逆算し,手術時の不顕性肝転移巣形成の有無について検討した.
膵癌培養細胞株のDTは40~70時間であり,同一症例の肝転移巣計測によるDTの約1/15であった.このことは,手術時肝内に撒布された癌細胞が培養細胞株のDTで発育すると,60~100日で顕性肝転移巣の増大がみられることになり,手術前後の免疫能の低下など,宿主環境によっては腫瘍の急激な発育をきたす可能性が示唆された.
また,肝転移巣のDTから求めた術後の肝転移巣の増大曲線をみると,3例において手術時すでに140µm,2.4mm,8.2mmの不顕性肝転移巣が形成されていた可能性が示唆され,術後この肝転移巣が増大して顕性となるという経過が推測された.
膵癌の予後向上には原発巣の治癒切除率を上げることは勿論のこと,治癒切除術前後の免疫療法を含めた厳重な経過観察が必要であり,またこの不顕性肝転移巣に対するなんらかの補助療法を確立する必要があると思われた.

キーワード
膵癌肝転移, 肝転移巣発育速度, Tumor doubling time


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