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日外会誌. 92(5): 526-534, 1991


原著

脳死状態で長期循環維持された肝臓の機能的ならびに形態学的変化に関する研究

大阪大学 医学部救急医学教室(主任:杉本 侃教授)

八幡 孝平

(1990年5月24日受付)

I.内容要旨
抗利尿ホルモンとカテコールアミンの併用投与により,長期にわたり循環を維持した脳死患者の肝臓につき,機能的ならびに形態学的に研究した.脳死に伴う肝の変化とその病因を明らかにするため,対象を脳死の原因が,単独頭部外傷で,出血性ショックや感染などの合併症を伴わない25症例に限定した.
脳死の期間が長引いても,肝細胞の形態学的変化は軽微であり,肝細胞内の脂肪変性が脳死早期に一過性に認められただけで,数日後には消失し,その後,長期間,ほぼ正常に保たれた.
血液生化学的には,脳死状態の期間が長引くと,血清アルブミン値,血清コリンエステラーゼ値が減少するなど,低栄養状態の進行がうかがえた.しかし,活性部分トロンボプラスチン時間はほぼ正常に維持され,蛋白合成能の大きな低下はないものと考えられる.
したがって,かつてわれわれの教室において発表した脳死症例にみられるGPTの異常上昇や,肝細胞の中心性壊死などは,多発外傷に伴うショックによるものと考えられる.
脳死状態に特徴的な肝機能の変化として,胆道系酵素のALP,LAP,γ-GTPとビリルビンの血清濃度の経日的な増加を確認した.また脳死例に大量輸血を行うと,総ビリルビン濃度が,著明に上昇することを認めた.
この所見に対応して,組織学的には,経日的に増強するグリソン鞘内への炎症性細胞浸潤を全症例に認めた.
その成因としては,脳死による胆汁排泄機能の廃絶が推察された.

キーワード
脳死, 肝移植, 抗利尿ホルモン, カテコールアミン


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