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日外会誌. 92(2): 206-213, 1991


原著

大動脈吻合部の成長に関する実験的研究
ー縫合糸及び縫合法による相違についてー

宮崎医科大学 外科学第2講座

中嶋 誠司 , 杉本 英彦 , 井上 正邦 , 辛島 誠一郎 , 鬼塚 敏男 , 古賀 保範

(1990年2月2日受付)

I.内容要旨
血管吻合部が身体の発育に見合って成長するか否かは幼少児期における心臓血管手術にとって重要な問題である.38匹の雑種小犬を用い,polypropylene suture(PPS)の連続縫合(PPS-C群n=10)または結節縫合(PPS-I群n=9),もしくはpolydioxanone suture(PDS)の連続縫合(PDS-C群n=10)または結節縫合(PDS-I群n=9)による腹部大動脈の端々吻合を行なった.術後2週,4週,8週,6ヵ月および1年目に大動脈造影を施行して吻合部の成長を追跡し,経時的に各群1~2匹を屠殺して吻合部の内圧300mmHgの耐圧試験,肉眼的検索および組織学的検索を行なった.大動脈吻合部は全例屠殺まで開存しており,拡張や動脈瘤の形成は認めなかった.また、耐圧試験にも全例が耐え得た.吻合部断面積は術後6ヵ月までは4群とも有意の成長を続けたが,PPS・C群のみは術後4週過ぎから吻合部の成長が低率で,術後8週以降の吻合部断面積は他の3群に比し有意に低値であった.吻合部狭窄率も他の3群は術後6ヵ月まで有意の減少を続けたが,PPS-C群のみは術後4週過ぎから再び増大した.この結果,術後6ヵ月目の狭窄率はPPS-I群3.5±2.8%, PDS-C群4.6±2.8%, PDS-I群3.6±2.0%と低率であったが,PPS-C群は27.5±7.4%と高率であった.吻合部成長率ではPPS-I群,PDS-C群, PDS-I群では術後6ヵ月で夫々258±46%,261±49%および237±26%に,術後1年では夫々302±45%,311±50%および299±18%に増大しこれらの3群間に有意差を認めなかったが,PPS-C群では術後6ヵ月で144±22%,術後1年で168±10%の成長にとどまった.また, PDS群では術後6ヵ月以降は肉眼的に内膜面に縫合糸を認めず,組織学的にもPDSは完全に吸収されており,炎症反応も認められなかった.以上より,PDSの全周連続縫合は全周結節縫合と同等の,生体の発育に見合った吻合部の成長が期待でき,将来の発育が要求される幼少児期の臓器移植や心臓血管手術に有用な吻合法と考えられた.

キーワード
動脈吻合部の成長, 吸収性縫合糸, polydioxanone suture (PDS), 連続縫合


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