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日外会誌. 91(11): 1720-1730, 1990


原著

脾自家移植後の再生脾組織に関する実験的検討

帝京大学 医学部第2外科

佐藤 匠一

(1989年10月31日受付)

I.内容要旨
脾摘後重症感染症に対する外科的な予防対策として,脾自家移植が臨床的にも試みられているが,移植後再生した脾組織の機能に関しては,必ずしも十分に知られていない.我々はラットを用い,脾自家移植後再生した脾組織の経時的な変化に注目し検討した.ラットを偽手術群と脾自家移植群に分け,脾自家移植群にはもとの脾組織の約50%重量を大網内に自家移植した.移植後1年間にわたり,再生脾組織の重量,病理組織学的変化,血流量,リンパ球およびマクロファージ(Mφ)の数と機能,肺炎球菌クリアランス,血小板数,Howell-Jolly小体およびマイクロアンギオグラフィーなどの面から検討した.
再生脾組織の重量および血流量は,時間の経過とともに増加し,移植後1年目に,再生脾重量はもとの移植脾の約80%,血流量も対照脾の約80%に達した.病理組織学的検索から再生脾組織は,移植後8週目でリンパ小節の発育を認め,1年目には,すでに対照脾とほぼ同様な構造であることが確認された.再生脾組織のリンパ球数およびMφ数は移植後早期に低値を示したが,16週目にリンパ球数が対照脾の58.8%,Mφが29.5%を示し,それ以降は偽手術群とほぼ同様に推移した.再生脾組織リンパ球の幼若化反応は,移植後早期に低値を示したが,その後徐々に高くなり対照脾の値に近づいた.再生脾組織Mφの肺炎球菌貧食能は,対照脾と有意差が認められなかった.脾自家移植群の肺炎球菌クリアランスは,脾摘群に比較して有意に促進された.マイクロアンギオグラフィーの結果から,移植後2週目ですでに移植脾周囲の新生毛細血管の再生が認められた.
移植脾組織は一且壊死に陥った後,時間の経過とともに,構造的および機能的にも正常脾組織に近づくが,なお正常組織におよぼず,感染予防の目的には,他の対策も併用すべきことが示唆された.

キーワード
脾自家移植, 脾血流量, 脾リンパ球機能, 脾マクロファージ機能, 脾摘後感染


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