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日外会誌. 91(11): 1659-1666, 1990


原著

DNA ploidy patternと腫瘍内リンパ球浸潤度からみた食道癌の進展と予後

*) 滋賀医科大学 第1外科
**) 滋賀医科大学 第1病理

川口 晃*) , 柴田 純祐*) , 小玉 正智*) , 浜田 新七**) , 服部 隆則**)

(1989年11月15日受付)

I.内容要旨
教室にて切除された食道癌35例を対象として,核内DNA量分布パターンの相異からその悪性度に対する再評価を試みると同時に,従来の病理組織学的予後因子との関連を検討した.さらに腫瘍の進展を修飾すると考えられている腫瘍周囲へのリンパ球様細胞の浸潤度と予後,及び食道癌核内DNA量分布パターンとの関連についても検索を試みた.
パラフィン包埋ブロックより得られた裸核浮遊液のスメア標本をDAPI法にて核染色を施し,落射型蛍光顕微測光法にて核内DNA量を測定した.得られたヒストグラムよりdiploid pattern(D型),aneuploid pattern(A型),mosaic pattern(M型)の3型に分類し,以下の検索に供した.
D型は35例中7例(20%)であり,A型,M型は各々16例(45.7%),12例(34.3%)であった.生存曲線をみると特にM型において生存率の悪化を認めた.深達度別にみると,表在癌においてはD型の出現頻度が40%と多く,深達度が増すに従ってM型の頻度が増加する傾向にあった.組織型別では高分化型扁平上皮癌にM型が多い傾向が見られた.またD型,A型に比べM型において3群リンパ節以上のリンパ節転移陽性例が増加する傾向がみられた他,脈管侵襲陽性例がD型,A型,M型の順に増す傾向を認めた.腫瘍内浸潤リンパ球との関連においては,D型において癌浸潤リンパ球が高度なものが多い傾向を示した.
以上より,癌細胞核の有する基本DNA量の変異,あるいは多モード化といった現象には,癌が発生してからの時間的経過,あるいは癌周囲環境による修飾のかかわり合いといったものが関連しており,さらにDNA量の変動が正の方向にも負の方向にも起こり得る可能性のあることが示唆された.よって,食道癌において癌部核内DNA量分布パターンは,包括的な意味における予後の指標となりうるものと考えられた.

キーワード
食道癌, DNA ploidy pattern, 蛍光顕微測定法, 腫瘍内浸潤リンパ球


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