[書誌情報] [全文PDF] (2439KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 91(8): 980-986, 1990


原著

直腸癌とDNA
-予後因子としての DNA 量測定の意義-

群馬県立前橋病院 外科消化器科
群馬大学 第1外科学教室

武川 啓一

(1989年9月13日受付)

I.内容要旨
研究目的:直腸癌治癒切除例について癌細胞核DNA量を測定し,その予後指標としての有用性並びにその節度を検討する事が目的である.材料方法:研究材料は英国St Marks病院病理部のもので1960~1965年の間に治癒切除術がなされ予後調査が終了している直腸癌369例である.研究方法は切除標本のパラフィンブロックからHedley法に準じて行い,癌細胞核DNA量はフロ一サイトメトリー(FACS-1)で測定した.結果:1)直腸癌369例の内56例について同一検体でその再現性を検討した.91.08%(51/56)においてDNA量の再現性を認めた.2)DNA量の分布はdiploid癌104例(28.2%),aneuploid癌252例(68.3%),tetraploid癌13例(3.5%)であった.diploid癌とaneuploid癌の5年生存率は各々81.6%,59.8%でdiploid癌の予後は統計学的有意に良好であった.3)DNA量とJassの新予後分類を構成している予後因子(リンパ節転移,壁深達度,浸潤型,リンパ球浸潤)との間には統計学的に有意(p<0.001)な関連性を認めたが,分化度,静脈侵襲との間にはなかった.4)直腸癌病期分類とDNA量分布との関連性でdiploid癌はJassの新分類Group IならびにDukes Aなどに多い事が認められた.5)単一変量解析でDNA量は統計学的に有意であるがlogrank値17.6と他の変数のそれよりも相当に低く予後因子として有用性は大きいとは云えない.6)各種のCox回帰分析でDNA量は予後因子としての独立性は認められなかった.結論:直腸癌治癒切除標本に関するDNA量は累積生存率ならびに単一変量解析では予後因子として統計学的有意(p<0.001)であるが,logrank値が低い事,各種のCoxの回帰分析で独立した予後情報とならない事,他の病理組織学的予後因子ならびに各種病期分類で目的を達する事が出来るので予後予知を目的としてルーチンにこれを行う事は適切とは云えない.

キーワード
直腸癌治癒切除例, DNA 量, DNA フローサイトメトリー, Cox の回帰分析


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。