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日外会誌. 91(8): 972-979, 1990


原著

大腸手術の術前腸管処置に関する研究
ー術中の大腸内菌,創面菌および術後感染創よりの分離菌の細菌学的検討ー

東京歯科大学 外科学教室
*) 慶応義塾大学 医学部外科学教室

小野 成夫 , 加藤 繁次 , 田中 豊治 , 石引 久弥*) , 小平 進*) , 阿部 令彦*)

(1989年8月4日受付)

I.内容要旨
大腸手術後に発生する局在性感染症は他の手術に比較して高頻度とされている.その対策としての術前腸管処置の意義を300例の大腸手術例を対象として検討した.全例に機械的処置を施行し,術前経口抗菌剤の相違によりI群:非投与,II群:kanamycin,III群:kanamycin,metronidazole,IV群:polymyxin B,metronidazoleの4群に分け,術中の大腸内菌,創面菌,術後感染創分離菌を解析した.術中の大腸内検出菌として代表的な菌種の検出頻度はI群よりIV群の順に,E. faecalisが67,68,62,88%,E. coliが79,55,54,26%,B. fragilisが79,78,6,2%で,kanamycinおよびpolymyxin Bの経口投与は大腸内の好気性グラム陰性桿菌を強く抑制し,その程度はpolymyxin Bの方が強かった.metronidazoleの経口投与は大腸内の偏性嫌気性菌,特にB. fragilisを強く抑制した.手術終了時の創面菌は術中の大腸内残在菌の汚染によるものが主であった.
術後創感染率は,I群よりIV群の順に48,27,12,3%と抗菌剤の術前経口投与の有効性が認められ,polymyxin Bとmetronidazoleの組合わせが最も術後創感染予防に効果が高かった.手術終了時の創面より分離されたE. coli,K. pneumoniae,P. aeruginosa,B. fragilisの菌量と術後創感染率には正の相関を認めた.
術後創感染55例より分離された主要起炎菌種は,E. coli 36株,B. fragilis 34株,E. faecalis 18株,P. aeruginosa 15株であった.術後感染創よりB. fragilisが分離されたのは34株で,そのうち33株(97%)は術前にmetronidazoleを投与しなかった群より検出された.また,B. fragilis単独感染例は認められず,同時に検出された菌種は,E. coli 26株(77%),E. faecalis 11株(32%)P. aeruginosa 7株(21%)であった.術前腸管処置として施行した機械的処置および経口投与したkanamycin,polymyxin B,metronidazoleに起因すると思われる副作用は認めなかった.

キーワード
術前腸管処置, 術後感染予防, 創感染, 複数菌感染症, 嫌気性菌感染症


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