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日外会誌. 91(8): 959-966, 1990


原著

ヒト胃癌培養細胞株とこれを用いた実験的肝転移細胞株の生物学的特性

横浜市立大学 医学部第2外科学教室(指導:土屋周二教授)

若杉 純一

(1989年9月18日受付)

I.内容要旨
本研究は,血行性転移成立における腫瘍細胞の生物学的特性の関与を知るために行った.ヒト胃癌培養細胞株KATO IIIをヌードマウス脾臓内に接種して,実験的肝転移モデルを作製し,肝転移巣より転移細胞株(KATO III-H2)を確立し,両細胞株の肝転移形成能,倍加時間,血小板凝集能,DNA index,染色体の構造を比較検討し以下の結果を得た.
1.今回用いたKATO IIIは,lag timeを有するS字状の凝集曲線を描く血小板凝集能を認めた.
2.KATO III-H2の血小板凝集能は,KATO IIIに比べて高く(p<0.01),またヌードマウス脾臓内接種による肝転移発生の頻度および転移結節数が,KATO IIIより多かった. 
3.KATO IIIとKATO III-H2は,病理組織学的所見,in vitroおよびin vivoの倍加時間,染色体数に差がなかったが,DNA indexはKATO III-H2のほうが低値で(p<0.01),染色体構造ではKATO III-H2にNo. 20のtrisomyを認めた.
以上から肝転移細胞株KATO III-H2はKATO IIIと異なるいくつかの生物学的特性があることが明らかとなった.今回作製した肝転移モデルは,腫瘍細胞が原発巣より遊離してから,血管内を移動し,転移臓器で着床して増殖する過程を反映したもので,腫瘍細胞の血小板凝集能は,主として転移臓器での着床に重要な役割をもつものと考えられた.

キーワード
KATO III, 肝転移, 血小板凝集能, DNA index, 染色体


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