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日外会誌. 91(8): 942-949, 1990


原著

上部消化管手術における Na 投与量の検討

関西医科大学 外科

小島 善詞 , 平松 義文 , 中川 明彦 , 真田 俊明 , 中根 恭司 , 日置 紘士郎 , 山本 政勝

(1989年7月18日受付)

I.内容要旨
上部消化管癌術後管理,特に水・電解質管理は依然未解決の問題が数多く残されているが,大侵襲の術後管理の基本は,従来より,水分・Na投与量の制限が原則とされてきた.しかし,最近、逆に水分制限下の高Na輸液を推奨する意見も散見される.今回,われわれは,高Na投与による影響を明らかにすべく,胃癌全摘術後患者を対象として,高Na投与群(以下,高Na群)と対照群との2群を設定し検討した.高Na群に対しては,術直後より,Na 5.0mEq/kg/day以上を術後5日目(POD-5)の朝まで,対照群に対しては,術直後より術翌日(POD-1)までは,2.0~2.5mEq/kg/dayとし,POD-2以降は,1.5~2.0mEq/kg/dayとした.両群とも,POD-5以降は,2.0~2.5mEq/kg/dayで維持した.また,輸液量は,両群とも35~40ml/kg/dayを基本方針とした.検討項目は,一次水分出納,一次Na出納,血中・尿中尿素窒素,血清・尿中電解質,クレアチニン・クリアランス,尿中NAG指数,Na排泄分画,自由水クリアランスなどである.
その結果,1)術直後よりPOD-5までの累積Na一次出納は,高Na群では正に,コントロール群では負に傾いた.2)高Na群は,術後早期で利尿がつき易く循環動態が安定し易い反面,細胞内脱水による細胞破壊を起こし易く,腎尿細管障害を早期より来し易い傾向があり,POD-2以降は,腎髄質障害およびNa貯留傾向がおこる傾向があったが,対照群では軽度であった.3)尿中尿素窒素排泄量からみた蛋白崩壊量は高Na群で有意に多く,栄養面でも悪影響を及ぼす可能性が示唆された.よって,術後早期の輸液は,コロイド輸液を併用したNa量0~0.5mEq/kg/day,輸液量35~40ml/kg/dayの輸液方針で,POD-2以降では,Na量1.5~2.0mEq/kg/day,輸液量30~35ml/kg/day程度の輸液方針が望ましいものと考えられた.

キーワード
胃癌全摘術, 術後腎機能, 術後輸液, 水・電解質出納, 電解質投与量

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