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日外会誌. 91(8): 931-941, 1990


原著

食道癌術後の hypercoagulable state に対する Gabexate Mesilate (FOY) の効果

福島県立医科大学 第1外科

薄場 彰 , 元木 良一 , 小泉 祐功 , 大石 明雄 , 遠藤 幸男 , 今野 修 , 井上 仁

(1989年9月26日受付)

I.内容要旨
食道癌切除術後には血液が異常に凝固し易い状態,いわゆるhypercoagulable stateが出現し,術後の合併症と密接に関係する.このhypercoagulable stateに対して蛋白分解酵素阻害剤であるGabexate Mesilate(FOY)の制御効果,特に血液凝固・線溶に関係するプロテアーゼに対する阻害効果を凝血学的に検討した.
食道切除術を施行した25例を研究対象とした.25例中8例にFOY 2,000mg/dayを術直後から3~ 23日間持続投与してFOY(+)群とし,投与しなかった17例をFOY(-)群として比較した.術前および第1,3,5,7病日に採血し,血小板系4項目,凝固系5項目,線溶系6項目の計15項目について検討し以下の成績を得た.
血小板系ではFOY(+)群では術直後のβ・トロンボグロブリンや血小板第4因子の上昇が抑制され,術直後に半減した血小板の回復が促された.すなわち,FOYは食道癌手術直後の血小板凝集・放出反応を制御し,血小板の消耗を最小限度に止めていた.
次に凝固系では,FOY(+)群ではプロトロンビン時間活性の減少や活性化部分トロンボプラスチン時間の延長の抑制は示さなかったが,フィブリノペプタイドAの上昇はほぼ制御され,ATIIIも温存された.すなわち,FOYは食道癌術後のhypercoagulabilityの原因であるトロンビンの異常な亢進をほぼ制御する強力な抗トロンビン作用を示した.
最後に線溶系ではプラスミノゲンの減少とフィブリノペプタイドBβ15-42の上昇が抑制され,抗プラスミンが温存された.すなわち,FOYは抗プラスミン作用も示した.しかしFOYの抗プラスミソ作用は抗トロンビン作用の約5分の1と生理的な範囲を逸脱するものではないと思われた.
以上,FOYは食道癌術後のhypercoagulabilityを効果的に制御しており,血液凝固・線溶に関連するプロテアーゼを有効に阻害していると思われた.

キーワード
食道癌術後, hypercoagulable state, Gabexate Mesilate (FOY), 血小板系, 凝固・線溶系

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