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日外会誌. 91(7): 889-900, 1990


原著

内胸動脈の冠動脈バイパスグラフト材としての有用性に関する病理組織学的並びに生化学的研究

奈良県立医科大学 第3外科(主任:北村惣一郎教授)

小林 博徳

(1989年8月16日受付)

I.内容要旨
動脈硬化性冠動脈疾患に対する冠動脈バイパス手術の動脈グラフトとして用いられる内胸動脈(IMA)の硬化の程度を病理組織学的並びに生化学的に検討しこれを冠動脈の硬化の程度と対比した.
1)病理組織学的検討は剖検13例(平均年齢58±20歳)より左右IMA26本と左冠動脈前下行枝(LAD) 13本を全長にわたり採取したものを対象とした.動脈硬化の指標は内膜/中膜の厚さの比(R)としRによりgradeI~IVに分類した. IMAの全274切片中grade IV (R≧3.0) を認めたものは1切片のみ(1/IMA26本,3.8%)であった. IMAのR (平均0.30±0.36) はLADのR(平均3.01±2.05)の約1/10であり, IMAのRはLADより有意に小さかった(p<0.01). IMAは場所の違いによる動脈硬化の差はなく全長どの部位もRは低値であり,また,左右差も認められなかった.一方,LADは近位側ほど動脈硬化の程度は強いのが特徴であった.
2)生化学的検討は剖検12例(平均年齢56±16歳)よりIMA12本とLAD11本の一部を採取したものを対象とし,血管壁脂質含量を測定して動脈硬化の程度を判定した.IMAとLADの血管壁脂質含量の比較では,総コレステロールはIMA5.5±1.8, LAD 17.8±13.6μg/mg wet wt. (p<0.05),中性脂肪は各々90.4±90.3, 114.4±117.2μg/mg wet wt., リン脂質は各々7.4±3.9, 11.2±3.9μg/mg wet wt. (p<0.05)でありIMAの脂質はすべてLADより低値であった.
3)以上よりIMAの動脈硬化はLADのそれと較べて同一個体内においても非常に軽度なことを明らかにした.従って,IMAは冠動脈バイパス手術のグラフトとしてほとんどの場合使用可能であると結論した.

キーワード
内胸動脈, 冠動脈, 動脈硬化, 脂質, 冠動脈バイパス手術


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