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日外会誌. 91(5): 631-638, 1990


原著

総肝動脈切離後の側副血行による血流について
―Appleby 手術症例に関する臨床的検討―

東京大学 医学部第2外科(主任:出月康夫教授)

飯塚 一郎

(1989年4月25日受付)

I.内容要旨
Appleby手術が企図された胃悪性腫瘍の18症例において,電磁流量計による固有肝動脈血流測定を行い,本手術による総肝動脈切離の影響を検討した.また,Appleby手術例と他の開腹手術例について,水素ガスクリアランス法による肝および胆嚢壁の組織血流の術後測定値を比較し,Appleby手術による組織血流レベルでの影響と,術後の血流の回復状況について検討した.結論は以下の如くであった.
1.総肝動脈遮断により,固有肝動脈血流量は,平均280±225ml/分から170±132ml/分へ減少し,平均して遮断前の値の64%となった.
2.術中の固有肝動脈血流量,固有肝動脈の拍動所見,術後の合併症およびトランスアミナーゼ値から,
a.総肝動脈遮断後,固有肝動脈の拍動が明瞭であることは,固有肝動脈の血流量が相当程度(遮断前のおよそ40%以上)保たれていることを示し,Appleby手術の適応指針としておおむね妥当と考えられた.
b.虚血による合併症が生じなかった本検討症例では,総肝動脈遮断後の固有肝動脈血流量が遮断前値の約40%以上に保たれていたことより,これが適応決定の一基準となると考えられた.術後トランスアミナーゼ高値例が生じなかった範囲から,総肝動脈遮断後の固有肝動脈血流量が90ml/分以上で,かつ遮断前値の50%以上を保つことを基準にすると,より安全であると考えられた.
3.肝および胆嚢壁の組織血流測定では,胆嚢壁血流は,Appleby手術により著明に減少することが示された.本手術の際には胆嚢の血流の状態に注意し,胆嚢壊死の予防に留意すべきである.これに対し,肝組織血流の減少は明らかでなく,門脈血流の存在が反映されたものと考えられた.
4.胆嚢壁組織血流の経時的測定から,Appleby手術例では,術後5~7日目までに他の開腹手術例とほぼ同程度までの血流の回復が起こることが推定された.

キーワード
Appleby 手術, 総肝動脈切離, 固有肝動脈血流, 胆囊壁血流, 肝血流


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