[
書誌情報]
[
全文PDF] (3224KB)
[会員限定・要二段階認証]
日外会誌. 91(5): 605-616, 1990
原著
肝移植における無肝期の全身血行動態および酸素需給動態に関する実験的研究
I.内容要旨同所性肝移植では門脈・下大静脈の遮断は避けられず,無肝期血行動態の安定化は重要である.ために門脈・下大静脈一上大静脈バイパス(V-V bypass)が考慮される.今回,V-V bypass下無肝期の病態を明らかにし,無肝期の全身血行動態の安定化を目的として実験的研究を行った.すなわち,雑種成犬にてV-V bypassにアンスロン
Ⓡバイパスチューブを用いた非強制灌流法と,Biopumpによる強制灌流法下の無肝期血行動態を比較し,さらに強制灌流法時の全身血行動態および酸素需給動態に及ぼす補液量ならびに循環補助剤としてのdobutamineの影響を検討した.
非強制灌流法では門脈・下大静脈系の圧上昇は避けられず,V-V bypassとして強制灌流法が有利と考えられた.しかし,いずれの方法でも無肝期の全身血行動態は,著明な心係数の減少,全身末梢血管抵抗の上昇,肺動脈楔入圧の低下傾向を示し,hypovolemiaを伴うhypodynamicな状態であった.さらに無肝期の酸素供給量の減少は著明で,動静脈血酸素含量較差が拡大し,酸素摂取率が増大するものの酸素摂取量の減少を招来した.この事実は,無肝期の全身循環障害が全身での酸素摂取率増大によっても代償されず,全身での代謝低下を来したためと考えられた.
この病態に対して補液量を増加すると,肺動脈楔入圧の低下は少ない傾向を認めるが,心係数の減少,全身末梢血管抵抗の上昇は著明で,酸素摂取量の減少も改善されなかった.したがって,無肝期にはhypovolemiaがbaseにあるが,それのみならず全身循環が抑制される病態の存在が示唆された.
そこでさらにdobutamineを持続的に投与すると,全身末梢血管抵抗の上昇を認めず,心係数および酸素摂取量は良好に維持された.
以上より,無肝期の全身血行動態の安定化にはV-V bypassに強制灌流法を用い,十分な補液とdobutamineによる循環補助が有効と考えられた.
キーワード
肝移植, 無肝期, 全身血行動態, 酸素需給動態, 静脈ー静脈バイパス
PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。