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日外会誌. 91(4): 451-463, 1990


原著

全幹迷走神経切離術前後の胃十二指腸運動について
ー幽門洞部十二指腸収縮連関を中心にー

新潟大学 医学部外科学教室第1講座(主任:武藤輝一教授)

吉田 正弘

(1989年6月1日受付)

I.内容要旨
迷走神経切離術の胃,十二指腸運動に及ぼす影響を明らかにする目的で,雑種成犬5頭を用いて実験的に検討した.初回手術で幽門洞部と十二指腸に電極とフォーストランスジューサーを装着し,意識下に筋電図および収縮曲線を同時に導出記録した後,経胸的全幹迷走神経切離術(全幹迷切)を施行,同様に記録した.
全幹迷切後の幽門洞部運動能の変化,およびantroduodenal coordinationの変化について検討するため,全幹迷切前後で幽門洞部の単位時間当たりの運動量と平均収縮力を測定し,さらに幽門洞部収縮時の十二指腸収縮の抑制(induced inhibition)と幽門洞部収縮の十二指腸への伝播(propagated excitation)を時系列相互相関を用いて分析し,比較検討した.結果は以下の通りである.
1)全幹迷切前では幽門洞部,十二指腸ともに筋電図と収縮曲線に有意の相関を認めた.
全幹迷切後は筋電図所見,収縮曲線には変化がみられるものの,全幹迷切前と同様に筋電図と収縮曲線に有意の相関を認めた.
2)全幹迷切前と比較して,全幹迷切後では食後期,空腹期ともに幽門洞部の運動量,平均収縮力は低下した.
3)全幹迷切前では食後期にpropagated excitationとinduced inhibitionの両者を認めた.空腹期のphase II時にはpropagated excitationのみを認めたが,phase III時には両者とも認められなかった.
全幹迷切後では食後期にpropagated excitationは認められるものの,その伝播時間は全幹迷切前より短縮し,induced inhibitionは認められなくなった.また空腹期のphase II,III時には両者とも認められなかった.
4)以上のような,幽門洞部の運動能の低下や,antroduodenal coordinationの消失は全幹迷切術後早期の胃内容停滞やダンピング症候群の一因に成りうるものと思われた.

キーワード
全幹迷走神経切離術, 消化管筋電図, 消化管収縮曲線, antroduodenal coordination


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