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日外会誌. 91(3): 386-392, 1990


原著

肝切除術後の動脈血中 TXB2, 6-keto-PGFの推移

金沢大学 医学部第2外科

清水 康一 , 泉 良平 , 伊与部 尊和 , 森 和弘 , 谷 卓 , 藪下 和久 , 宮崎 逸夫

(1989年4月28日受付)

I.内容要旨
肝切除術後の病態とTXA2,PGI2との関連を明らかにするために,それらの安定な代謝産物であるTXB2,6-keto-PGFの動脈血中濃度をRIA法にて測定し,その推移を検討した.対象は,肝切除術を施行した原発性肝癌20例(肝硬変併存例17例),転移性肝癌5例,肝血管腫1例,計26例である.肝硬変併存例では,動脈血中TXB2は術前19.7±2.6pg/ml(Mean±SE)から肝切除術直後に55.6±5.1と著明に上昇したが,術後1日目以降はほぼ術前値に復した.肝硬変非併存例でも同様に,術前17.0±2.8から術直後89.6±25.9と著明に上昇したが,術後1日目以降は術前値に復した.また,動脈血中6-keto-PGFは,肝硬変併存例で術前12.1±2.0pg/mlから術直後124.0±24.7に,非併存例で術前7.5±0.9から術直後104.2±23.1と著明に上昇したが,術後1日目以降は両者とも術前値に復した.しかし,その比率(Ratio)は,肝硬変併存例で術前1.99±0.25から術直後0.68±0.08に,非併存例で術前2.26±0.25から術直後1.10±0.24と著明に低下し,以後次第に上昇した.これらの変化は,肝硬変併存例と非併存例との間では有意な差がみられなかったが,肝硬変併存例のうちICG血中消失率が0.08未満の高度肝障害群では,0.08以上の軽度肝障害群,肝硬変非併存例に比較して,術前後を通じて動脈血中6-keto-PGFの有意の増加と,Ratioの有意の低下が認められた.以上より,肝硬変併存例,ことに肝予備能の低下した症例では,TXA2とPGI2のバランスはPGI2優位に傾いており,このバランスの崩れは肝切除術後にはより著明になっていると考えられた.

キーワード
Thromboxane B2, 6-keto-prostaglandin F, 肝切除術, 肝硬変


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