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日外会誌. 91(2): 206-213, 1990


原著

老年者出血性潰瘍症例の検討
ー特に背景因子と予後との関連においてー

神戸大学 医学部第1外科
*) 神戸労災病院 外科

守友 仁志 , 長畑 洋司 , 裏川 公章*) , 武田 浩一郎 , 橋本 可成 , 市原 隆夫 , 斎藤 洋一

(1989年3月17日受付)

I.内容要旨
老年者の出血性潰瘍は重篤な基礎疾患を有していたり重要臓器の予備能が低下していることが多く,その予後は一般に不良とされている.今回は,過去19年間に経験した老年者出血性潰瘍症例52例を対象に,予後に影響を及ぼす背景因子ならびに手術時期の面から検討を加えた.
出血率を年代別にみると59歳以下の12.8%に対し60歳代33.0%,70歳以上37.3%であった.潰瘍歴を有する症例は42.3%で,病悩期間は3ヵ月未満の短期例が61.6%であった.自覚症状は腹痛が51.9%と最も多かったが,出血で突然発症したものが28.8%あった.術前ショックに陥った症例は44.0%,併存症を有する症例は62.7%,2,000cc以上の大量出血例は31.3%であり,死亡率はそれぞれ40.9%,31.3%,46.7%と高率であった.治療の内訳は保存的治療例が12例,手術例が40例であり,このうち待期手術が15例で死亡率6.7%,緊急手術が25例で死亡率28.0%であった.
背景因子の相互関係と予後について検討すると,併存症とショックをともに有する症例の死亡率は57.1%と極めて高率で,特に保存的治療のみに終始した3例は全例死亡した.併存症もショックも有しない症例には死亡例はなかった.併存症またはショックを有する緊急手術例における手術時期と予後にっいて検討すると,出血回数2回以下で保存的治療期間3日以内の群は死亡率18.2%であったのに対し,それ以外の群の死亡率は62.5%と極めて高率であった.
以上より,老年者出血性潰瘍の治療にあたっては,併存症またはショックを有する症例では積極的な早期手術が望ましいと考える.一方,併存症もショックも有しない症例では多くの場合保存的治療から待期手術を目指すことも可能と思われる.

キーワード
老年者出血性潰瘍, 併存症, 出血性ショック, 輸血量, 出血性潰瘍の手術時期


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