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日外会誌. 91(2): 191-200, 1990


原著

食道癌の悪性度に関する研究
―フローサイトメトリーを用いた核DNA量の測定―

新潟大学 医学部第1外科教室(主任:武藤輝一教授)

長谷川 正樹

(1989年3月20日受付)

I.内容要旨
原発性食道癌症例112例のパラフィン包埋ブロックを対象に,フローサイトメトリーによる癌細胞核DNA量測定を行い,臨床病理学的に検討した.DNA量はヒストグラムパターンにより以下の4群に分類した.Type A:一峰性の左右対象型(65例).Type B:一峰性の非対象型(21例).Type C:firstpeakの右方にsecond peakの出現するもの(12例).Type D:明らかな2つのpeakを認めるもの(14例).であり,Type Aはeuploidy群,Type B,C,Dはaneuploidy群として検討した.
(1)現行食道癌取り扱い規約に基づく,深達度,リンパ節転移をはじめ,進行度に関与する各規定因子,および脈管侵襲とDNAパターンとの間に有意の関連性は認められなかった.(2)組織型において,高分化型では58.7%(27/46)中分化型では65.0%(26/40)がType Aであった.低分化型ではaneuploidy群が47.6%(10/21)を占め,中でもType Dの占める割合が増加し,未分化癌の2例はいずれもType Dであり,分化度の低下はDNAパターンに反映されることが示唆された.(3)術死,他病死を除く105例の遠隔成績は,euploidy群59例の5年生存率65.5%に対し,aneuploidy群46例では4年生存率15.7%と有意の低下を認めた.(4)組織学的進行度別に両群間の術後成績を比較すると,stage 0,1,2症例の再発死亡例はすべてaneuploidy症例であり,いずれの進行度においてもaneuploidy群は予後不良であった.(5)高,中分化型を示した80例の遠隔成績は,euploidy群の4年生存率69.1%に対し,aneuploidy群では39.2%であり,両群間に有意差が認められた.(6)癌細胞の核DNA量は,癌腫発生時点より一定量を有し,癌固有の性格(悪性度)を反映するものと考えられた.(7)DNAパターンによる分類はその予後を推測する一因子として臨床上有用であり,従来の病理組織学的所見に加味する事により再発の危険性の高い症例を予測することが可能であり,術後の集学的治療選択の基準となり得るものと考えられる.

キーワード
食道癌, 癌の悪性度, DNA 分析, フローサイトメトリー


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