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日外会誌. 91(1): 29-35, 1990


原著

腹部大動脈周囲リンパ節郭清例からみた胃癌リンパ節転移の検討

京都第二赤十字病院 外科(主任:徳田 一部長)
京都府立医科大学 第1外科学教室(指導:高橋俊雄教授)

高橋 滋

(1987年7月13日受付)

I.内容要旨
上腸間膜動脈根部リンパ節No. ⑭A・結腸間膜リンパ節No. ⑮および横隔膜より下腸間膜動脈根部の高さの腹部大動脈周囲リンパ節No. ⑯すなわち胃癌取扱い規約のn4リンパ節(以下第4群リンパ節)を可能なかぎり郭清した(以下超拡大郭清と略す)胃癌症例129例を対象として,リンパ節転移の状況を組織学的に検索した.つぎに,リンパ指向性のある微粒子活性炭CH44を用いて,これら第4群リンパ節へのリンパの流れを検索し,そしてこれらの検索から,以下の結果を得た.
1)n4(+)と判定された25例について,胃癌取扱い規約に規定されているリンパ節各群の転移状況をみると,第3群(n3)リンパ節に転移を認めなかったものが11例(44.0%)に認められた.
2)ps(+)胃癌ではn4(+)症例は31.5%と高い頻度であった.
3)いずれの占居部位であっても第4群リンパ節に転移が認められた.特に3領域CMA癌, C癌では高率であった.これに対し第4群に転移を認めずに第3群リンパ節に転移を認めた例は,A癌のみ6.8%に認められたに過ぎなかった.
4)第3群(n3)リンパ節に転移を認めずに,第4群リンパ節に転移を認めた例では第4群リンパ節の転移個数は少なく(転移度34.9%),第3群に転移を認めた例では第4群リンパ節の転移個数は多かった(転移度90.1%).
5)微粒子活性炭CH44を術前に内視鏡を用い胃癌周囲粘膜下層に注入し,胃切除をおこなったところ,いずれの占居部位においても第4群リンパ節はもっともよく黒染されていた.
6)第4群リンパ節転移例の累積生存率をみると,第3群に転移を認めない症例では有意に遠隔成績が良好であった.
以上より胃からの局所リソバ流は第3群リンパ節よりも第4群リンパ節で豊富であり,胃癌取扱い規約に定められた第3群よりも第4群リンパ節に先に転移のおこる可能性が示唆された.また第4群リンパ節の郭清を行わなければ,真の治癒切除判定は不可能と考えられた.とくにn3(-)・n4(+)症例では超拡大郭清術をおこなう意義があると考えられた.

キーワード
胃癌, 超拡大郭清, 腹部大動脈周囲リンパ節, 微粒子活性炭 (CH44), 治癒切除判定


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