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日外会誌. 90(11): 1899-1906, 1989


原著

肝阻血後の機能的・形態的回復過程に関する実験的研究

兵庫医科大学 第1外科(主任:岡本英三教授)

笹瀬 信也

(1988年12月8日受付)

I.内容要旨
ラット部分肝阻血モデルを用いて,阻血肝細胞の回復過程を14日間に亘り機能的,超微形態定量的に検討した.
30分遮断群(n=35)では,肝組織ATP値(mol/mg protein)は血流再開直前の0近くから6時間後には血流遮断前値(前値)まで急速に回復した. それに同期して, ミトコンドリア/単位細胞質面積(N/μm2)は前値の1.41倍の最大値に達し, 一方,単ーミトコンドリア面積は前値の2/3の最小値を示した.光顕検索による壊死率,線維率の増加は軽微であり対照群と同程度であった.
60分遮断群(n=35)では,肝組織ATP値の回復は緩徐で前値に復するのに14日間を要した. 30分遮断群で観察されたミトコンドリアの数的増加及び面積の減少は軽度に留まり, 6時間後の値は各々前値の1.05倍,4/5であった.壊死率は6時間後,線維率は4日後に各々最大となった.ライソゾームは,阻血解除後6時間において,対照群及び30分遮断群に比べ有意(p<0.05)に増加した.脂肪滴は,阻血解除後6時間において60分遮断群が他の2群に比べ有意(p<0.05)な高値を示したが, 7日, 14日後の後期では有意(p<0.05)に低値で推移した.
以上の結果より,阻血時間が30分であれば,阻血解除後早期にミトコンドリアの旺盛な分裂による代償性機能冗進が認められ,肝細胞壊死は軽微に留まることが判明した. しかし,阻血時間が60分におよぶと, ミトコンドリアの分裂は抑制され,肝組織ATPの回復遅延とともに肝細胞壊死が顕著となった.

キーワード
肝阻血, 形態計測, ATP, ミトコンドリア, 微細構造定量


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