[書誌情報] [全文PDF] (743KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 90(11): 1890-1898, 1989


原著

大腸癌患者の予後に与える輸血の影響の検討

京都大学 医学部第1外科

小野寺 久 , 前谷 俊三 , 戸部 隆吉

(1988年12月27日受付)

I.内容要旨
大腸癌の術後生存に及ぽす輸血の影響を検討するために, 592例の大腸癌初回手術患者のデータをコンピュータに入力し,多変量解析をおこなった.予測変数には,年齢,癌占拠部位(結腸か直腸か),Dukes分類のTurnbull変法,術前ヘモグロビン(Hb)値,麻酔時間,輸血量,出血量の7変数を取り上げた.解析に用いた統計手法は, Coxの比例ハザードモデルによる回帰分析と, logistic regression analysis, Mantel-Haenszel testなどである.
Coxの解析ではとくに, Dukes分類変法,輸血量,の順に有意であり(p<0.0001), 次いで麻酔時間,癌占拠部位,出血量の順であった.術前Hb値と年齢は有意ではなかった.logistic analysisでは,輸血はDukes分類変法とともに1年生存および5年生存と有意の関連があった.年齢,術前Hb値,出血量,麻酔時間は有意の関連を示さなかった.患者をステージにより層別し,次いで輸血量,出血量, Hb値で群に分けMantel-Haenszelテストを行うと,輸血量のみが統計的に有意であった.とくに輸血の有無が,予後に大きい影響を与えた.以上より輸血は,ステージ,貧血,出血量や麻酔時間とは無関係の独立した予後増悪因子であり,かつステージに次いで生死と密接な関連があることが示された.最後に臨床決定分析を含めて癌手術における輸血を控えるための対策を提案した.

キーワード
大腸癌, 多変量解析, 輸血による免疫抑制, 予後因子


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。