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日外会誌. 90(10): 1692-1696, 1989


原著

術後血中顆粒球エラスターゼの変動と手術侵襲および術後合併症
ー硬変肝切除例を中心にー

大阪府立成人病センター 外科

柴田 高 , 今岡 真義 , 佐々木 洋 , 永野 浩昭 , 和田 尚 , 石川 治 , 岩永 剛

(1988年11月25日受付)

I.内容要旨
外科手術,特に硬変肝切除術前後にて血中頼粒球エラスターゼ(PMN-E)およびその阻害物質であるα1-アンチトリプシン(α1-AT),α2-マクログロブリン(α2-MG)を測定しその臨床的意義について検討した.
肝硬変合併肝癌肝切除例(n=31:A群),慢性肝炎合併肝癌肝切除例(n=5:B群),肝病変非合併肝切除例(n=6:C群),肝切除以外手術例(n=10:D群)とした.術前血中PMN-E値(mean±S.E.μg/l)はA群138.0±11.4,B群184.8±38.5,C群144.3±16.0,D群95.6±12.8μg/lであった.各群とも術直後より術後1日目に急上昇し,平均で術前値の3倍以上の上昇を示したが,術後3日目以後低下傾向を示した.しかし,A群のみ術後5日目に532.1±184.1μg/lと再上昇を示した.全症例において術後24時間以内の血中PMN-E最高値は術中出血量および術中輸血量と有意な(p<0.01)正の相関関係が認められた.非輸血例18例においても手術時間,術中出血量と正の相関関係(p<0.05)が認められた.A群31例中,術後感染症8例,adult respiratory distress syndrome(ARDS)2例,高ビリルピン血症5例と高頻度に術後合併症を認め,感染症,ARDS合併時には血中PMN-Eは高値を示した.血中α1-ATは術後一旦低下し術後3日目以後上昇を示した(C群は変化なし)が,A群の上昇はC,D群の上昇に比して有意(p<0.01)に低かった.血中α2-MGは術後各群とも上昇傾向は認められなかった.したがって,硬変肝切除術後にはPMN-Eなどの多核白血球由来のproteaseとそのinhibitorであるα1-AT間のimbalanceが増強すると考えられた.

キーワード
顆粒球エラスターゼ, 手術侵襲, 肝硬変, 術後合併症


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