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日外会誌. 90(6): 894-906, 1989


原著

胆嚢癌の組織発生
-特に胆嚢粘膜の化生性変化,および上皮性粘液,CEA 等の分布の特徴について-

富山医科薬科大学 医学部外科学第1講座(主任:山本恵一教授)
*) 金沢医科大学 病理学第1講座
**) 金沢医科大学 病理学第2講座
***) 新潟県厚生連糸魚川病院 

稲田 章夫 , 小西 二三男*) , 山道 昇**) , 伊藤 博***)

(1988年5月19日受付)

I.内容要旨
胆嚢癌の組織発生を追究するため,胆嚢癌30例,慢性胆嚢炎300例および正常胆嚢(対照)12例を対象に,それらの粘膜上皮における化生性変化や異型増殖の状態を明らかにし,各種粘液やCEA等の分布を検討することによって,これらの病変と癌組織との間に連続性が求められるかどうかを吟味した.
慢性胆嚢炎および担癌胆嚢非癌部に出現する化生性変化は,腸上皮化生に属する杯細胞がそれぞれ11%,70%,Paneth細胞が2%,33%,好銀細胞は10%,57%にみられ,偽幽門腺化生が45%,87%に認められた.癌組織では杯細胞型癌細胞が70%,好銀細胞が43%に認められた.Lysozymeは担癌胆嚢非癌部では60%,癌組織では53%に陽性であった.また胆嚢癌症例の50%の癌組織中にCPS III型粘液が観察された.これらの化生性変化は高分化の腺癌に出現頻度が高かった.しかし早期癌と進行癌とで差はみられなかった.担癌胆嚢の非癌部,癌部共に高率に腸上皮化生が認められたことは胆嚢癌の背景病変としてこの型の化生が重要であることを示唆している.また偽幽門腺化生も胆嚢癌の背景病変として重要である可能性が示唆された.さらに,胆嚢癌について全割再構築図を作製したところ,腸上皮化生粘膜を背景に異形成より癌に至る連続性が観察された.
組織化学では慢性胆嚢炎,担癌胆嚢非癌部共に腸上皮型化生粘膜上皮の自由縁に正常には存在しないsialomucinが出現し,異形成,癌組織において著しく増加し,それに平行してCEAも陽性であった.すなわち,高度異形成の観察された慢性胆嚢炎3例,胆嚢癌12例の癌組織周辺粘膜の化生性・異形成病変部における粘液組成が癌組織のそれと酷似し,それら全例にCEAが陽性であったことより,自由縁におけるsialomucinの出現は細胞の癌化に伴う糖蛋白質の変質であると推定され,癌化過程の形態学的追求に有用な所見と考えられた.

キーワード
胆嚢癌, 化生性変化, 異形成, 粘液組織化学, CEA


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