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日外会誌. 90(5): 753-766, 1989


原著

肝膵同時大量切除後の糖代謝と膵内分泌機能の研究

三重大学 医学部第1外科学教室(指導:水本龍二教授)

三田 正明

(1988年3月1日受付)

I.内容要旨
肝膵同時大量切除後の糖代謝の変動,並びに膵内分泌機能と膵島の形態的変化について雑種成犬を用いて実験的に検討した.肝膵同時大量切除では,膵単独切除に比し耐糖能や末梢血中IRIは良好に維持され,糖尿病の発現率は低率であった.IRIの肝摂取率は術後早期には低下するものの,術後4週目では正常値に回復した.アルギニン負荷時の門脈血中IRIは肝膵同時大量切除後糖尿病非発現例では膵単独切除に比し術後1,2,4週目のいずれも有意に高値を示した.アルギニン負荷時の門脈血中IRGは肝膵同時切除と膵単独切除の間で有意の差は認められなかった.膵島の形態的変化をみると膵島の容積比は,膵単独切除でも術後1週目には増加し,70%肝単独切除でも術後1,2週目では正常犬に比し有意に高値を示したが,肝膵同時切除後糖尿病非発現例では膵単独切除に比し術後1,2,4週目のいずれも有意に高値を示した.膵島長径の分布をみても,180μm以上の大きい膵島の比率は,肝膵同時大量切除後糖尿病非発現例では,術後1,2,4週目のいずれも膵単独切除に比し高率であった.膵島細胞の変化をみると,92%以上膵単独切除,92%以上膵切除兼70%肝切除後糖尿病発現例では,経時的にB細胞の減少と空胞変化の増加を認めたが,92%以上膵切除兼70%肝切除後糖尿病非発現例では,B細胞の減少や空胞変性はともに軽度であった.
以上,肝膵同時大量切除では,膵単独切除に比し糖尿病の発現率が低かったが,この機序として膵単独切除に比しIRI分泌は良好に維持され,また形態的にも膵島は著しいhypertrophyを示したことから,肝切除の併施により,膵切除後の膵島の再生が促進されるためと考えられた.

キーワード
糖尿病, アルギニン負荷試験, IRI, 肝摂取率, 膵島 B 細胞


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