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日外会誌. 90(5): 669-680, 1989


原著

食道癌根治術後早期における肺・腎機能変動に関する研究

慶応義塾大学 医学部外科(指導:阿部令彦教授)

篠沢 洋太郎

(1988年8月12日受付)

I.内容要旨
食道癌根治術後の肺機能低下には種々の要因が関与する.著者は89例の食道癌根治術例を対象とし,術後低酸素血症と腎機能との関係を循環動態,内分泌変動,輸液量などをふくめて検討し,さらに術後低酸素血症の予防につき考察し,以下の結果を得た.
(1)術後の腎機能は術当日~1病日に最低となるが,自由水クリアランス(CH2O)>-0.5ml/minとなる腎機能低下は33例(37%)にみられた.この腎機能低下群はCH2O≦-0.5ml/minを維持した腎機能良好群に比し高齢(64.7±9.1 vs. 60.3±8.8,mean±SD,p<0.05)であり,5病日まで腎機能低下は遷延し,空気呼吸時PaO2も1~5病日を通じ低値で3病日に最低であった.
(2)腎機能低下群では術当日,肺動脈喫入圧(PWP),左室一回拍出仕事係数(LVSWI)は術前に比し低下したが,術当日から2病日にかけてPWP,LVSWIは有意に上昇した.これらは術後ごく早期における非機能的水分量増加に基づく循環血液量減少・腎機能低下と,利尿期における循環血液量の回復・腎機能低下の遷延による不十分な利尿のための循環血液量の相対的増加に基づくものであり,換気血流不均等に関与し低酸素血症をきたしたと考えられた.
(3)5病日までのPaO2の最低値く50mmHgの高度低酸素血症例は43例(48%)にみられたが,軽度低酸素血症例(PaO2の最低値≧50mmHg)に比しアルドステロン分泌は2病日に高く,これが体内水分貯留と利尿抑制に関与し,肺機能低下との間に悪循環が形成されている可能性が示唆された.
(4)高度低酸素血症例の3病日PaO2術前値差(⊿PaO2)と術当日~1病日のCH2O最大値との間には⊿PaO2=-18.5×CH2O-47.1(r=-0.63,p<0.001)なる相関がみられた.
(5)以上より術後低酸素血症には術後ごく早期の腎機能低下も関与しており,低酸素血症の予防には術後早期の十分な輸液投与により循環動態を安定させ,腎機能低下を防ぐことが必要と考えられた.

キーワード
食道癌, 臓器相関, 術後低酸素血症, 術後腎機能, 自由水クリアランス


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