[書誌情報] [全文PDF] (2137KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 90(4): 566-572, 1989


原著

肝切除後の臓器不全
ー特に肝不全の発生機序と病態ー

福井医科大学 第1外科
*) 横浜市立大学 第2外科

嶋田 紘 , 松葉 明 , 新本 修一 , 藤田 秀春 , 中川原 儀三 , 土屋 周二*)

(1988年1月18日受付)

I.内容要旨
肝切後における肝不全の発生機序と病態を検討した.肝切89例中肝不全は17例(17.9%),多臓器不全は18例(20.2%)であった.肝不全は術中術後の大量出血(9例),縫合不全(4例)と肝切除自身(過大侵襲,4例)を契機に発生し多臓器不全の1つとして出現した.
肝切後の経過を血清総ビリルビンの推移から経過良好群(I群)44例,黄疸遷延群(II群)8例,肝不全群13例に分けて検討した.血中エンドトキシンは3群とも術後1日目をピークに22~160pg/mlまで上昇し,I群とII群は以後減少した.肝不全のうち術後大量出血の1例は出血と共に再上昇し,過大侵襲の1例は術直後の高値が持続した.貧食指数K値は術後1日目に術前値の半分(平均0.015-I群,0.011-II群)にまで低下したがその後回復した.肝不全群では術前値平均0.016とやや低く,術中大量出血,過大侵襲の術後1日目は平均0.006でその後回復しなかった.血清CH50は術後1日目に術前値の半分(平均24.4U/ml-I群,21.5U/ml-II群,20.8U/ml-肝不全群)に減少した.I群,II群がその後回復するのに肝不全群は回復しなかった.血漿フィプロネクチンも術後1日目に術前値の約半分(平均187.5μg/ml-I群,115.0μg/ml-II群,99.3μg/ml-肝不全群)に減少した.I群,II群ではその後回復したが,肝不全群では更に低下した.血小板数は3群とも術後1~3日目に低下(12.1×104-I群,10.3×104-II群,10.9×104-肝不全群)した.I,II群が徐々に回復するのに肝不全群は更に低下した.
以上の結果より肝切除後の肝不全はMOFの一部として発症し,その特徴は血中ナプソニンの低下を伴った不可逆性の網内系貧食能低下と血小板数の低下であった.

キーワード
肝切除術, 臓器不全, 肝不全, エンドトキシン血症, 生体防御機能


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。