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日外会誌. 90(3): 429-433, 1989


原著

非定型的乳房切断術後の大胸筋萎縮に関する筋電図学的研究

国立長崎中央病院 外科
*) 国立長崎中央病院 内科

田代 和則 , 古川 正人 , 中田 俊則 , 草野 敏臣 , 林 訑欽 , 渡部 誠一郎 , 森 正孝*)

(1988年4月27日受付)

I.内容要旨
非定型的乳房切断術後の大胸筋萎縮の原因を明らかにする目的で,当院にて手術を受けた術後40日から最長2年の計20人を対象として筋電図検査を施行し検討を行った.20人の内訳は女性18人,男性2人で,年齢は26歳から66歳,平均45.0歳で,術式別には大胸筋温存手術11例,大・小両胸筋温存手術9例であった.筋電図検査測定方法は,まず大胸筋を鎖骨部,上・下胸肋部,腹部の4部に分けたうえ,単芯型針電極を使用して行ない,その際に各部位毎の肉眼的な筋萎縮の有無の判定も行なった.筋電図検査における電気生理学的評価は,安静時の筋線維自発電位や筋線維束自発電位の出現の有無と随意運動時の運動単位の形や数の変化の有無を観察することにより行ない,以下の結果を得た.
1)20例中16例(80%)に大胸筋のいずれかの部位に脱神経の所見が認められた.しかし全例が神経切断例という訳ではなく,神経切断以外の胸筋神経損傷と考えられる例もあった.
2)筋電図で脱神経の所見を示さなかった4例では肉眼的に筋萎縮を認めなかった.大脳筋腹部の筋萎縮の判定に困難なことがあったが,肉眼的筋萎縮の部位と筋電図における神経原性変化の部位とはよく一致することから非定型的乳房切断術後の大胸筋の萎縮の原因は主に胸筋神経の損傷によると考えられた.
3)大胸筋温存群では,大胸筋胸肋部を支配する神経損傷を生じやすく,これは小胸筋切除時に起こりやすいことが疑われた.大胸筋腹部は術式の如何にかかわらず高率に損傷を受けていた.鎖骨部には神経原性変化は1例も認めなかった.
4)胸筋神経損傷後の大胸筋には神経再支配が認められるものがあった.
5)我々の症例においては筋線維束自発電位は1例も認めなかった.

キーワード
非定型的乳房切断術, 大胸筋萎縮, 術後胸筋萎縮, 筋電図, 胸筋神経損傷


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