[書誌情報] [全文PDF] (1870KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 90(2): 273-279, 1989


原著

甲状腺癌手術時における上皮小体の自家移植による機能温存

名古屋大学 医学部第2外科

竹内 元一 , 舟橋 啓臣 , 佐藤 康幸 , 今井 常夫 , 野崎 英樹 , 水野 茂 , 高木 弘

(1988年3月25日受付)

I.内容要旨
上皮小体の移植法に改良を加え,全摘のうえ甲状腺癌手術に応用することを試みた.そして術式が一定化した最近の症例で術後1年以上経過観察しえた25症例を用い,移植片の機能回復過程や術後1年の機能について検討した.予防的補充療法は行わなかったが13例は低Ca症状をきたすことなく回復したので,これを非テタニー群として扱った.一方術後にテタニー症状が現れた12症例には,その時点で乳酸Caや1α-hydroxycholecalciferolの投与を開始した.血清Ca値やP値は補充療法の影響をうけるため非テタニー群のみで検討したところ,血清Ca値は術後3週で術前の97.4%まで回復していた.すなわちこの時点で移植片の生着がほぼ完了したと考えられる所見であった.また乳酸Caや1α-hydroxycholecalciferolを投与した症例でも,平均投与期間はそれぞれ24.7日と17.0日にすぎず,以後は非テタニー群と同様に回復に向かった.そこで移植直後の生着過程をより詳細に検討するため,7症例を用いて末梢血中PTH濃度や血清補正Ca値,%TRPの変動を術後2週まで測定した.その結果7日目に回復を始める血清補正Ca値に先行してPTHはすでに術後5日目から上昇を始めており,早期から移植片が生着して血清Ca値の回復してきていることが裏づけられた.術後2週目における末梢血中PTH濃度と血清補正Ca値は,それぞれ術前の85.9%および89.4%まで回復していた.術後3ヵ月以降はCa,Pともに正常域の中間値が続き,1年後もまったく不変であったことから,以後も永続して正常機能を維持できると推定された.なおCaの体内分布の大半をしめる骨については骨塩含量を測定したところ健康者比100.6%と完全な正常値であり,PTHの主要標的臓器である骨も正常な代謝を維持していることが明らかとなった.以上から,操作が比較的簡単でより十分なリンパ節郭清も望みうる本法は,甲状腺癌の臨床に広く応用してよい結果と考えられた.

キーワード
甲状腺癌, 上皮小体自家移植, 上皮小体ホルモン (PTH), 血清カルシウム


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。