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日外会誌. 90(1): 93-101, 1989


原著

膵癌患者リンパ球を用いたヒト型モノクローナル抗体の作製と基礎的検討

大阪市立大学 第1外科学教室(主任:梅山 馨教授)

田中 肇

(1988年3月15日受付)

I.内容要旨
モノクローナル抗体(MoAb)を癌治療に応用するためにはヒト型MoAbの作製が望まれる.しかし,未だ有用なヒト型MoAb作製の報告は少ない.そこで今回,著者は膵癌患者のリンパ球を用いて悪性腫瘍に対するヒト型MoAbの作製を試み,以下のような成績をえた.
①膵癌患者の末梢血リンパ球から71個,リンパ節リンパ球から257個,合計328個のヒト・ヒト融合細胞を作製しえた.これらの融合細胞が産生するヒト型MoAbのスクリーニングの結果,20個のMoAbが培養癌細胞株と反応を示し,もっとも腫瘍特異性が高いと思われたヒト型MoAb・OC2D(IgM)を選択しえた.②OC2D融合細胞は,doubling timeが23.3hr,抗体産生量が3μg/mlと抗体産生能は安定しており無血清培地でも増殖能良好であった.③OC2Dの培養細胞株に対する反応性は,17種類の細胞株のうち,膵癌細胞株2種(Capan2,RWP2),大腸癌細胞株2種(CaCo2,WiDr),肝癌細胞株1種(Alexander cell)に反応し,正常細胞株4種(chang liver,G361,N7,N13)とは反応しなかった.④OC2Dの免疫組織染色では,膵癌(12/19),大腸癌(6/14),胃癌(5/15)などに反応を示し,正常組織では反応はみられなかった.⑤OC2Dが認識する抗原は,主に細胞膜に存在する非分泌性の抗原でそのepitopeはシアル酸を含まない糖鎖上に存在するものと思われた.また血液型物質A,B,H,Lewis a,b,x,さらにT抗原やCA19-9,CA125,Span1抗原との交叉反応はみられなかった.
以上の成績から,今回作製したヒト型MoAb・OC2Dは,主に細胞膜に存在し,しかも非分泌性腫瘍関連抗原を認識するという点で,臨床的にimagingやtargeting therapyに有用なMoAbと考えられた.

キーワード
腫瘍関連抗原, ヒト型モノクローナル抗体, ヒト・ヒト融合細胞, targeting therapy

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