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日外会誌. 90(1): 49-58, 1989


原著

胆汁酸の胃癌発生促進作用に関する実験的研究

鳥取大学 医学部第1外科

竹林 正孝

(1987年10月8日受付)

I.内容要旨
ラットにN-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(MNNG)を投与し,その前後に胆汁酸を投与することによって,胆汁酸の胃癌発生促進作用の有無を実験的に検討した.まず実験(1)としてウィスター系雄性ラットを5群に分け,そのうち第1群から第3群まではラットにMNNG(120μg/ml)を飲料水として24週間投与した後,第1群には水道水,第2群にはケノデオキシコール酸(CDCA),第3群にはデオキシコール酸(DCA)をそれぞれ12週間投与した.第4群にはCDCAを,第5群にはDCAをそれぞれ36週間継続して投与した.これら5群の経時的変化を観察しつつ36週後にすべて屠殺した.実験(2)としてラットを3群に分け,まず第1群には水道水,第2群にはCDCA,第3群にはDCAを12週間投与し,次に3群すべてにMNNGを24週間投与したのち12週間水道水を投与し,48週で屠殺した.これらの動物について病理組織学的に検討し,かつ胃癌発生頻度を検索した.
その結果,実験(1)では胃癌発生率はMNNG単独群で36.7%であったのに対してMNNG+CDCA群では57.1%,MNNG+DCA群では63.6%と高率であり,CDCA群,DCA群では癌は発生しなかった.MNNG+DCA群の発癌率はMNNG単独群のそれに比して,有意(p<0.05)に高かった.癌腫の組織型はMNNG単独群ではすべて分化型腺癌であったが,胆汁酸投与群では未分化型腺癌,あるいは分化型と未分化型の混合型腺癌が発生した.実験(2)では胃癌の発生率はMNNG単独群で29.4%,CDCA+MNNG群43.8%,DCA+MNNG群44.4%であり,発癌率は胆汁酸投与群が高い傾向があった.胃内容pHの測定では,実験(1)でMNNG単独群に比して,胆汁酸投与群はいずれも有意(p<0.05)に高値を示した.
以上のことから,胆汁酸ことにデオキシコール酸(DCA)には胃癌発生の促進因子としての作用のあることが示唆された.

キーワード
N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine, 実験胃癌, プロモーター, 胆汁酸

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