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日外会誌. 90(1): 34-43, 1989


原著

移動式人工代用食道としての広背筋弁内自家遊離空腸粘膜移植に関する実験的研究

久留米大学 医学部外科学第1講座(主任:掛川暉夫教授)

音琴 要一郎

(1988年1月11日受付)

I.内容要旨
生体組織と人工材料の利点を組み合わせた人工代用食道を作成する目的で,雑種成犬38頭を用いて広背筋に人工血管を包埋し,人工筋弁管腔を作成した.この管腔内に遊離空腸粘膜を移植して,粘膜上皮を伴った人工食道が作成可能か否かを実験的に検討した.
まず,予備実験として一期的に広背筋弁による管腔作成とその管腔内に空腸粘膜の移植を行ったところ,全頭とも管腔内の感染が著明で移植粘膜は生着せず,この実験は失敗に終った.その原因として,移植母地である広背筋弁の血流不足および移植母地としての筋弁管腔内面と移植粘膜との接合が不十分であることが考えられた.そこで,人工血管と広背筋弁を組み合わせて人工管腔を作成したところ,管腔作成後2週目には筋弁管腔内面に新生血管に富む良性肉芽を形成することができ,その組織血流量も筋弁単独表面の39.2±4.0ml/min/100gに対し,65.5±12.5ml/min/100gと有意な高値を示した.この結果から,広背筋弁に直接空腸粘膜を移植することは不可能と判断し,まず,第一期手術として広背筋弁と人工血管とにより血流豊富な粘膜移植母地をもつ人工管腔を作成し,二期手術としてこの人工管腔内に空腸粘膜の移植を行った.なお,空腸粘膜は10cmの長さで完全に遊離切除した状態で移植し,また管腔内のドレナージを十分に行った.その結果,耐術した7頭全てに移植空腸粘膜の生着を認めた.遊離移植粘膜の生着状態を病理組織学的に検索したところ,移植後3~4週目のものは,ほぼ正常粘膜構造を呈していた.また,移植粘膜への血行動態をマイクロアンギオグラムでみると,移植粘膜は筋弁より流入する豊富な動脈血流で栄養されていた.
以上より,本法によって作成された人工管腔は,粘膜上皮を伴っている上に,胸背動静脈を栄養血管とするため広範囲に移動ができ,人工代用食道として十分応用できるものと考えられた.

キーワード
人工代用食道, 広背筋弁管腔, 遊離空腸粘膜移植, 組織血流量


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