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日外会誌. 89(10): 1707-1715, 1988


原著

吻合部内膜肥厚に及ぼす血流異常の影響
―基礎的, 臨床的検討―

旭川医科大学 第1外科

小窪 正樹

(昭和62年12月23日受付)

I.内容要旨
小口径代用血管の端側吻合部における内膜肥厚(AIH)の局在及び形態学的変化を血流異常との関係から基礎的,臨床的に検討した.
基礎的検討:端側吻合部における流出路流量配分を変えた時の血流の変化を,接合角度30゜の端側吻合モデルを用いて観察した.末梢側流出路流量配分(DOS)が多い場合はほぼ層流が保たれていたが,中枢側流量配分(POS)が増大するにつれ(特に50%以上),toeに著明なBoundary Layer Separation(BLS)が形成された.代用血管移植実験は雑犬30頭に,Biograaft 22,EPTFE 3,Dacron 5本を移植した.術式は腹部大動脈(端々)右腸骨動脈(端側)Bypassである.末梢端側吻合角度を30°,90゜,150゜とすることにより吻合部toe及びheel方向への血流配分が異なる条件を得,各々I群(n=14),II群(n=5),III群(n=11)とした.端側吻合部の末梢側及び中枢側の術中血流量は各々40±19及び125±50ml/minであった.従ってI群ではPOS流量配分が多くなり,toeにBLSを発生するが,III群では発生しにくいと考えられる.最長35カ月までの観察で,AIHはI群の4例(36%)及びII群の1例(25%)にみられ,III群ではみられなかった.I群のAIHはいずれもBLSに一致してtoeに著明であり,移植1年以降に発生した例が半数以上を占めた.AIHの形態は材料による相違がみられ,BiograftではAIH先進部が剝離し血栓を付着していたが,器質化したEPTFEでは血流に沿ったゆるやかな丘状隆起を呈した.臨床的検討:Biograftを用いた血行再建103例中,中間期以降の血管造影が得られた35例を対象とした.AIHを発生した大腿膝窩動脈Bypassでは全例共通して末梢端側吻合部のtoe及びheelに強い狭窄が観察された.この所見は基礎検討における1群と同様であった.
結論として,端側吻合におけるPOS血流配分増大は顕著なBLSを発生し,AIHの重要な誘因になると考えられた.対策としてPOS血流配分が50%以上に及ぶ場合,端々吻合とするか,または流出路分離再建術が有用と考えられた.

キーワード
吻合部内膜肥厚, 端側吻合, Boundary Layer Separation, 流出路分離再建


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