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日外会誌. 89(8): 1241-1251, 1988


原著

膵切除再建術式の臨床的,実験的検討
―第2編 切除後の小腸腸管運動の筋電図学的検討―

京都大学 医学部第 I 外科学教室 (指導:戸部隆吉教授)

塩田 昌明

(昭和62年9月16日受付)

I.内容要旨
膵頭十二指腸切除後の小腸腸管運動を検討するために,イヌを用いてI型再建(胃一膵一胆)群とII型再建(胆一膵一胃)群の2群の膵頭十二指腸切除再建モデルを作成した.腸管運動の観察には双極白金電極を再建腸管各部位に慢性的に埋め込み空腹期,摂食期の腸管運動を長期間にわたつて筋電図学的に検討した.
空腹期の腸管運動(IMC)の観察においては,I型再建群では比較的正常に近いIMCサイクル(phase I~phase IV)が認められ,観察された39 IMCのうち76.9%が下部小腸へ連続して伝播した.一方,II型再建群では観察された190 IMCのうち26.8%が非伝播性であり,下部小腸へ伝播したのは僅か48.9%に過ぎず著しいIMC伝播障害が認められた.またIMCサイクルにおいても,II型再建群では異常に長時間持続するphase IIやphase IIIがしばしば観察され,その形成障害も窺えた.これらII型再建群に観察されたIMCの異常は空置空腸上,特にその口側端において顕著であつた.
摂食期の観察でも,I型再建群では食餌刺激に対する正常の腸管運動が惹起され.食後2時間のaction potentialの頻度はいずれの腸管部位においても88.1%~90.8%であつたが,II型再建群では37.6%~54.0%であり再建腸管における食餌刺激に対する反応性の低下が示唆された.
以上,膵頭十二指腸切除後の再建腸管においては正常で観察される腸管運動とは異なつた著しい異常がしばしば認められ,特にこの傾向はII型再建群において顕著であつた.またこれら再建腸管に観察された腸管運動の異常は,膵頭十二指腸切除後の栄養障害の一つの誘因ともなり得ると推察された.

キーワード
膵頭十二指腸切除, 腸管運動, 腸管筋電図, interdigestive myoelectric complex (IMC), 空置空腸


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