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日外会誌. 89(8): 1233-1240, 1988


原著

膵癌術中照射療法に関する実験的検討

東北大学 医学部第1外科学教室
*) 東北大学 医学部放射線医学教室

小寺 太郎 , 松野 正紀 , 小針 雅男 , 赤石 敏 , 坂本 澄彦*)

(昭和62年8月31日受付)

I.内容要旨
膵癌の放射線感受性を明らかにし,至適照射線量を検討した.更に術中照射療法の治療成績向上のため新しく開発された低酸素細胞増感剤RK-28を併用し放射線増感効果を検討した.実験にはSyrian golden hamsterにDIPNを投与し作成した膵癌を用い,i)膵癌細胞の生存曲線,ii)50%腫瘍治癒線量(TCD50),iii)照射後の腫瘍体積の変動と組織学的変化,について検討し,以下の結果を得た.(1)生存曲線から膵癌細胞のDo値は35Gy,外挿値2で膵癌は放射線低感受性であつた.また細胞中の約35%が低酸素状態にあつたものと推定され,これが放射線抵抗性の一因になつているものと考えられた.(2)TCD50は73.7±6.9Gyと高値を示した.(3)術中照射線量である10~40Gyの線量の照射で腫瘍は1~2週の増殖抑制の後対数増殖を示した.増殖抑制の期間は線量に比例し延長した.組織学的には照射一週後では核の消失,濃染,細胞質の膨化など癌細胞の変性所見や腺管構造の破壊像が見られ,その程度,範囲は線量依存性であつた.しかし2週後には既に残存癌胞巣の活発な再増殖像が目立つていた.(4)RK-28は生存曲線で8Gy以上の線量域で増感効果を示し,大量照射との併用に有利と考えられた.実際TCD50はRK-28の併用で53.8±1.87Gyとなり放射線増感効果比は1.37であつた.術中一回照射線量である30Gy,40Gyとの併用でも腫瘍の増殖抑制期間は3~4.5週と延長し,縮小率も元の体積の各々62%,52%と著明に増大した.以上の成績から膵癌は放射線感受性が低く,臨床で用いられる20Gy~40Gyの照射線量では抗腫瘍効果は得られるが,一時的であること,一方,強力な低酸素細胞増感剤RK-28の併用により有効な抗腫瘍効果が得られることを明らかにした.

キーワード
膵癌, 術中照射, 放射線感受性, 低酸素細胞増感剤


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