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日外会誌. 89(6): 921-930, 1988


原著

各種甲状腺疾患における Thymidine Kinase 活性およびその isozyme 活性

東京医科歯科大学 第2外科 (指導:三島好雄教授)

村上 三郎

(昭和62年7月13日受付)

I.内容要旨
各種甲状腺疾患の生物学的性状を検討する目的で,DNA合成律速酵素でpyrimidine salvage経路に位置するthymidine kinase(TK)およびそのisozyme活性を測定した.
測定対象は,甲状腺分化癌14例(papillary adenocarcinoma 9例, papillo-folliculor adenocarcinoma 3例, follicular adenocarcinoma 2例),甲状腺腺腫10例,腺腫様甲状腺腫10例, Basedow病16例,および正常甲状腺組織13例である.総TK活性は正常甲状腺組織に比し,甲状腺分化癌で3.28倍,甲状腺腺腫で3.01倍,腺腫様甲状腺腫で1.77倍,Basedow病で1.89倍を示した.甲状腺分化癌と甲状腺腺腫の間に有意の差が認められないことから,甲状腺分化癌の増殖速度は良性である甲状腺腺腫と同程度であると推測された.甲状腺分化癌の組織型に関しては,甲状腺乳頭癌で総TK活性が甲状腺濾胞癌よりも高い値を示す傾向があつた.甲状腺分化癌における年齢および性差に関しては,なんら有意な差を認めなかつた.甲状腺腺腫では,tubular adenomaの総TK活性がcolloid adenomaのそれよりも高値を示した.また,腺腫様甲状腺腫の総TK活性はBasedow病の場合と同じく比較的低値を示しており,過形成的性格のものであると考えられた.
さらに,DEAE-cellulose column chromatograthyによりTK-isozymeを分離したところ,3分画に活性部分が存在した.そのうち0.1M NaClを含むbufferで溶出される分画に存在するTK-isozymeは,甲状腺分化癌では他の疾患に較べ有意に高値を示した.この特異なTK-isozymeはd-CTP(デオキシチジントリフォスフェート)により活性阻害を受けにくいところから, DNA合成に密接に関与していることが示唆された.

キーワード
甲状腺分化癌, DNA 合成系酵素, thymidine kinase, thymidine kinase isozyme


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