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日外会誌. 89(6): 906-920, 1988


原著

シクロスポリンの胸腺並びに脾臓に及ぼす影響に関する実験的研究

大阪市立大学 医学部第1外科 (指導:梅山 馨教授)

永井 裕司

(昭和62年7月14日受付)

I.内容要旨
強力な免疫抑制効果を持つCiclosporin(CYA)の作用機序に関する報告は多いが,未だ不明の点も多い.そこでCYAを正常ラットに5mg/kg 2週間および8週間,15mg/kg 2週間, 30mg/kg 1週間それぞれ腹腔内に連日投与し,胸腺と脾臓の変化について検討し,以下の成績を得た.
1.正常ラットにCYAを投与するとdose dependentに血清CYA濃度は上昇し,体重は減少した.しかし,投薬を中止すると殆んどの例で体重は急速に回復した. 2. 胸腺は各群とも重量,重量体重比および細胞数ともに有意に減少し,投薬中止後は比較的速やかに回復したが, 5mg/kg 8週投与群の回復は他の群に比し,遅延した. 3.胸腺は病理組織学的に髄質の著明な萎縮,皮質での多数の空隙が認められた.これらの変化は投与量が多い程著明であった. しかし,投薬中止後は比較的速やかに回復した. 4. 胸腺の免疫組織染色ではW3/13陽性胸腺細胞数が減少し, Tリンパ球サブセットでは髄質のW3/25陽性細胞の減少が0X8陽性細胞の減少より強い傾向がみられた. 5. 脾重量は有意の変化はみられなかったが, PALSでのリンパ球の分布の疎化, marginal zoneでの細胞の減少が認められ,投薬中止後も認められた. 6. 脾臓の免疫組織染色では白脾髄のW3/13陽性細胞の減少, Tリンパ球サブセットではW3/25陽性細胞の減少がより強くみられた.脾内リンパ球のW3/25•0X8比は低下し,投薬中止後は回復した. 7. 5mg/kg 8週投与群,15mg/kg群,30mg/kg群では肺の感染像が多くみられた.
以上の結果からCYAは胸腺および脾臓に著明な影響をもたらすが, これらの変化は可逆的であった.しかし,長期あるいは大量投与時には肺などの感染症の合併に注意する必要性が示唆された.

キーワード
Ciclosporin, 胸腺, 脾臓, 免疫組織染色, 感染症


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