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日外会誌. 89(5): 737-746, 1988


原著

ヒト乳癌の細胞動態的解析
―flow cytometryによる実験的臨床的検討― 

慶応義塾大学 医学部外科学教室(指導:阿部令彦教授)

中村 明彦

(昭和62年6月30日受付)

I.内容要旨
ヌードマウス可移植性ヒト乳癌株及び乳癌手術材料を用いてflow cytometry (FCM)によるDNA分析を行い, DNA量, DNA ploidy patternからみた乳癌の生物学的悪性度について検討を加えた.対象はヌードマウス可移植性ヒト乳癌株4株(MX-1, T-61, R-27, MCF-7) と乳癌臨床手術材料31例である. EPICS-V flow cytometer用い, propidium iodideでDNA染色した単離細胞最低2×104コを測定した. chicken red blood cellsをinternal standardとして各腫瘍のploidy levelを算出し,DNA indexを求めた.細胞周期の解析はBagwellの方法に従つて行い, S期の細胞数の全細胞数に対する割合を%Sとして算出した. ヌードマウス可移植性ヒト乳癌株は全例non-diploid typeを示し,このうちMCF-7のみがtetraploid typeであった.%Sと腫瘍倍加時間(Td)との間には極めて高い相関関係が示され,%Sが高い程腫瘍の増殖は速やかであった.
臨床手術材料の74%(23/31)がnon-diploid typeであり, ploidy patternと各種背景因子との間にはいかなる相関も認められなかった. 31例中26例に%Sの算出が可能であり,その平均±標準偏差値は22.18±9.71%であった.%Sと各種背景因子との相関をみると,組織学的異型度IIIの方がIよりも%Sが高く,ER, PgR共に陰性の方が陽性よりも%Sが高かった(p<0.05).
FCMによる%Sは腫瘍の増殖速度を反映し,組織学的異型度,ホルモンレセプターの有無と相関することから予後予測因子として有用であると考えられた.

キーワード
flow cytometry, 乳癌, DNA index, %S


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