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日外会誌. 89(5): 694-702, 1988


原著

肝切除後の脂質代謝に関する実験的研究
―再生肝ミトコンドリア機能を中心に

山形大学 医学部第1外科(主任:塚本長教授)

片桐 茂

(昭和62年6月18日受付)

I.内容要旨
肝切除後における脂質代謝を,主として肝ミトコンドリア機能の面から正常およびthioacetamide肝硬変ラットを用いて検討した.正常ラットの70%肝切除群においては単開腹を施行した対照群に比ベ,血清遊離脂肪酸およびグルカゴン濃度の上昇に伴う肝内中性脂肪画分の増加が術後24時間後をピークに観察された.そこで肝切除後の肝内脂肪蓄積とエネルギー代謝との関係を明らかにする目的で再生肝ミトコンドリア(Mt)の呼吸能をsuccinateおよびpalmitoyleamitineを基質として測定した. succinateを基質とした場合,肝切群では対照群に比べ術後24時間後にstate 3呼吸の亢進により呼吸調節比(RCI)およびATP生成能が上昇し,術後48時間後に対照群とほぼ等しい値まで減少した.一方, palmitoylcarnitineを基質とした場合の肝切除群ではsuccinateを基質とした場合と同様にstate 3呼吸の亢進によるRCI,ATP生成能の上昇が見られ,これは術後72時間後まで持続した.また,肝切除群では再生肝Mtのcamitine palmitoyltransferase活性が術後72時間後まで上昇していた.すなわち,正常ラット肝切除後には肝Mt内への脂肪酸の輸送およびMtでの脂肪酸酸化がともに亢進していると考えられた.肝硬変ラットの肝切除後の肝Mt呼吸能ではsuccinateを基質とした場合にはRCIは術前値よりも上昇するが正常ラットよりは低値であったがATP生成能は術後72時間後まで正常ラットより高値を示した.つまり,肝硬変ラットの再生肝ではMtの機能障害は存在するがエネルギー需要の増大に対応し代償的にATP生成能が亢進していると考えられた.一方, palmitoylcamitineを基質とした場合の再生肝MtはRCI, ATP生成能とも正常ラットよりも高値を示した.
以上より正常ラット,肝硬変ラットのいずれにおいても肝切除後には脂肪酸がエネルギー基質として利用されることが示唆された.

キーワード
肝切除, 脂質代謝, 再生肝, ミトコンドリア

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