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日外会誌. 89(4): 568-575, 1988


原著

膵全摘術後早期の糖質代謝と高アミノ酸血症の成因に関する実験的研究

新潟大学 医学部第1外科学教室(指導:武藤輝一教授)

三科 武

(昭和62年5月9日受付)

I.内容要旨
膵全摘術後早期における糖質代謝変化と高アミノ酸血症の発生機序に関して実験的に検討した.雑種成犬を用い膵・胃全摘術を施行し,術後インスリンを投与しない11頭をI(-)群,インスリンを0.2u/kg/dayにて投与した10頭をI(+)群,sham手術として脾摘術を施行した15頭をS群とした.術前,術後1,3日目に6-3H-ブドウ糖を用いたprimed constant rate infusion法によるブドウ糖産生速度(Ra),血糖値,大腿動静脈血漿アミノ酸濃度を測定した.基礎値の測定後グルカゴンを30ng/kg/minにて持続投与し上記指標の変化についても検討した. 
Raは術後I(-)群でS群に比べ高値となったが(p<0.01),I(+)群ではS群と有意差は認められなかった.グルカゴン投与によりI(-)群でRaは低下したが(p<0.01),I(+)群では増加した(p<0.01).血糖値はI(-)群でS群に比べ高値となり(p<0.01),I(+)群ではS群と有意差はみられなかった.グルカゴン投与によりI(-)群での血糖値には変化がみられなかつたが,I(+)群でのそれは増加した(p<0.01).大腿動脈血漿アミノ酸濃度は術後I(-)群,I(+)群ともに糖原性アミノ酸を中心にS群に比べ高値となつたが,分枝鎖アミノ酸(BCAA)濃度はI(-)群ではS群に比べ高値であったが,I(+)群ではS群と有意差はみられなかった.グルカゴン投与時には糖原性アミノ酸など濃度の低下を呈するアミノ酸が多くみられたがBCAA濃度には変化がみられなかった.大腿動静脈アミノ酸濃度較差はI(-)群,I(+)群ともにS群と差はみられなかった. 
以上の結果より膵・胃全摘術後においてインスリン投与により血糖値を管理しても糖原性アミノ酸を中心とした高アミノ酸血症がみられ,これはグルカゴンの欠落による肝でのアミノ酸の取り込みの減少が原因と考えられ,膵全摘術後におけるグルカゴン投与の必要性が示唆された.

キーワード
膵全摘, 糖質代謝, 高アミノ酸血症, 外因性グルカゴン


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