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日外会誌. 89(4): 534-546, 1988


原著

レクチン染色による1,2-dimethylhydrazine 誘発ラット大腸腫瘍およびヒト大腸腫瘍の組織化学的研究

慶応義塾大学 医学部外科学教室 (指導:阿部令彦教授)

固武 健二郎

(昭和62年5月1日受付)

I.内容要旨
大腸癌における複合糖質の変化を検討する目的で,糖鎖構造により結合部位の互いに異なるレクチンとしてピーナッツ・レクチン(PNA),小麦胚芽レクチン(WGA),ハリエニシダ・レクチン(UEA-1)の3種のレクチンを用い, レクチン結合性の組織化学的な検索を行った.検索に用いた材料は, 1,2-dimethylhydrazine誘発ラット大腸癌および内視鏡的あるいは手術的に切除されたヒト大腸癌22病変腺腫31病変,過形成性ポリープ11病変である.本実験に用いたドンリュウ系ラットでは, DMH短期大量投与法で,投与後20週に177個/24匹の腫瘍発生が得られ,その発生部位は遠位大腸が71%を占め,分化型腺癌が多かった.
ラットでは,大腸の部位によりPNA,UEA-1の染色性に差があり,いずれの染色性も近位大腸が優位であることが示された.
ラット, ヒト大腸において, PNA,WGA,UEA-1の染色部位および染色陽性度で示されるレクチン結合性は癌と非癌部粘膜上皮では異なることが示された.癌の細胞表面では非癌部粘膜上皮に比べて染色陽性度が高率であることが各レクチンに共通な変化であり,胞体内では各レクチンとも染色の不規則性が特徴的な所見であった. ヒト良性ボリープのレクチン染色性は癌とも正常粘膜上皮とも異なることが示された. UEA-1の細胞表面の染色性は癌,腺腫,非腫瘍性粘膜上皮の順に陽性率が有意に高く,胞体内でも有意差はないものの同様の傾向が認められた.
ラットのPNA,UEA-1,ヒトのPNA染色において,癌に隣接する粘膜の上皮細胞胞体内に正常粘膜より有意に高い腸性率が示された.
以上の結果から,大腸癌,癌に隣接する粘膜および正常粘膜の上皮細胞において, レクチン染色性により認識される複合糖質はそれぞれ存在様式が異なり,癌に特異的な変化があることが明らかになった. また,癌に隣接する粘膜上皮には従来のHE染色による形態学ではみられない生化学的な変化が存在すると考えられた.

キーワード
レクチン, 大腸腫瘍, 1,2-dimethylhydrazine (DMH) 誘発ラット大腸癌, 複合糖質, 移行部粘膜


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