[書誌情報] [全文PDF] (683KB) [会員限定・要二段階認証]

日外会誌. 89(2): 238-244, 1988


原著

実験的急性膵炎における膵 microcirculation の変動

大阪市立大学 医学部第1外科

西脇 英樹 , 佐竹 克介 , 康 市塤 , 梅山 馨

(昭和62年3月27日受付)

I.内容要旨
急性膵炎の初発因子あるいは増悪因子の1つとして膵虚血,特に膵microcirculationの低下が示唆されている.方法: trypsin加自家胆汁膵管内注入による実験的急性膵炎犬を作成し,膵炎の進行にともなう膵microflowの変動を中心に,大腿動脈圧,門脈血流量を経時的に測定する一方,上記膵炎犬にDopamine(10μg/kg/min), Pancreatic protease inhibitor (PATM: 3mg/kg/hr)を投与し膵microflowへの影響について検討した.結果:急性膵炎(15頭)では,膵microflowは,前値55.6±17. 0ml/min/100gが膵炎作成直後では軽度上昇がみられたが,以後1~ 5時間後まで持続的に低下した.平均大腿動脈圧は作成5時間後では血圧の低下と脈圧の狭少化がみられた.門脈血流量は,作成直後より著しく低下し,そのまま低値を示した.一方, Dopamine投与膵炎犬(10頭)では,膵microflowは作成後2時間以内は非投与膵炎犬に比し高値を示し,膵microcirculationは維持されたが, 5時間後では共に低下した.大腿動脈圧では作成後90分まで維持されたが,その後低下傾向を示した.門脈血流量は,作成1時間後まで維持されたが5時間後では低値を示した. Pancreatic protease inhibitor投与膵炎犬(10頭)では,膵microflowは作成後2時間まで維持されたが5時間後では有意に低下を示した.大腿動脈圧は作成直後では低下したが,その後回復し脈圧も維持された.門脈血流量は作成2時間後まで有意に上昇を示したが,その後5時間後まで低下傾向を示した.
以上,急性膵炎犬の膵microcirculationは膵炎の進行と共に低下を示した. Dopamine投与により膵炎作成早期(1~ 2時間)では大腿動脈圧,門脈血流量を保持し,膵microcirculationの低下を防いだ.また, Pancreatic protease inhibitor投与は,膵炎作成2時間まで膵microcirculationの低下を防ぎ,門脈血流量を増加し,大腿動脈圧を維持する作用が示された.しかし,両者は,膵炎増悪・進展を防ぐことは出来ず, 5時間後にはともに出血性壊死性膵炎を呈したが膵炎早期の膵microcirculationの維持改善に関与する可能性が示唆された.

キーワード
急性膵炎, Pancreatic microcirculation, 門脈血流量, Dopamine, Pancreatic protease inhibitor


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。