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日外会誌. 89(2): 181-191, 1988


原著

大腸癌の予後に関する病理学的因子の統計学的解析

京都大学 医学部第1外科

丸岡 康洋 , 前谷 俊三 , 戸部 隆吉

(昭和62年3月26日受付)

I.内容要旨
1965年から1983年まで当科で手術を受けた503例の大腸初発癌について,その病理学的所見と追跡データを基にコンピュータを利用して統計学的解析を行ない,各病理学的因子の予後判別力や各因子の各カテゴリーの癌進行度を客観的かつ量的に評価した.
病理学的因子としては腫瘍の占居部位,肉眼形態,縦径,環周度,肝転移,その他の遠隠転移,腹膜播種, リンパ節転移,壁深達度,癌細胞の静脈侵襲, リンパ管侵襲,分化度,粘液産生,浸潤増殖様式,小円形細胞浸潤,間質反応の16変量を選び2~5のカテゴリーに分けた.統計学的方法としては,通常のノンパラメトリックな検定法や5年生存率,生存期間中央値のほかに,多変量解析としてCoxの比例hazard回帰分析,林の数量化理論II, III類を用い,また赤池の情報量規準,Kendallの順位相関,相対リスク,線型trendtestなどを求めた.
その結果, 16因子の中でどの統計的方法を用いても予後判別に特に有用な因子は,肝転移,腹膜播種, リンパ節転移と壁深達度,静脈侵襲,リンパ管侵襲であった.しかし,この6因子の予後判別力の順位は使用する統計方法で変動した.通常の検定法では肝転移と腹膜播種が1, 2位を占めたが,これは早期死亡を判別するためとみなされた.静脈侵襲とリンパ管侵襲は長期予後を含めて高い予後判別能を示した.とくに静脈侵襲のカテゴリーを単なる侵襲の程度でなく,侵襲がどの層の静脈にまで及んでいるかによつて再分類すると,その予後判別能は単独因子でありながら,複数因子の組み合わせである病期分類に匹敵した.各因子の各カテゴリーにつき相対リスクを求めると,これは5年生存率や生存期間中央値よりも癌進行度をよく反映し,各カテゴリー問のきめの細かい予後の比較が可能であった.
以上より,近代統計学的解析は癌の予後因子に関する臨床家の経験的評価を量的に再確認したり修正する上で不可欠のものと言える.

キーワード
大腸癌の予後因子, 静脈侵襲, 多変量解析, 赤池の情報量規準, 相対リスク


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