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日外会誌. 88(12): 1743-1748, 1987


症例報告

Cell Saverが有効であつた胸・胸腹大動脈瘤の3手術例

名古屋大学 医学部第1外科

池澤 輝男 , 向山 博夫 , 宮内 正之 , 錦見 尚道 , 山田 育男 , 矢野 孝 , 塩野谷 恵彦

(昭和61年10月22日受付)

I.内容要旨
1986年1月から3月までの3カ月間に,胸大動脈瘤の2例と胸腹大動脈瘤の1例に,一時バイパスを用いて血行再建術を行なった. 術中出血量に対する輸血量を減らすために自家血輸血装置(Haemonetics社 Cell Saver)を用いたところ,その効果は著明であった.
症例1は59歳男性で,胸大動脈瘤に対し内径20mmのwoven Dacron graftを用いて血行を再建した.手術時間8時間,出血量1,680g, Cell Saver処理量5,340mlで, これに対し保存血400g, 濃厚赤血球5パックを輸血した.術後14日で退院し経過良好である.
症例2は70歳男性で,大動脈弓下凹面の動脈瘤に対し内径20mmのwoven Dacron graftを用いて血行を再建した.手術時間8時間30分,出血量2,700g,Cell Saver処理量3,900mlで, これに対し保存血4,400gを輸血した.術後24日で退院し経過良好である.
症例3は52歳男性で, Crawford III型の胸腹大動脈瘤に対し20×10mmのY型knitted Dacron graftを用いてGrawford法2)に準じて血行を再建した.手術時間11時間20分,出血量1,700g,Cell Saver処理量15,000mlで,これに対し保存血1,600g,濃厚赤血球26パックを輸血した.術後遷延する呼吸障害と輸血後肝炎のため退院までに3カ月を要した.
Cell Saverの効果を比較するために,本装置を用いなかった胸腹大動脈瘤の2例を加えて,出血量に対する輸血量の比率をみると,用いた症例では20%~67%であるのに対し,用いなかった症例では120%~130%であった.この結果からCell Saverの効果は明白である.特に症例3は血液型がRh(-)であり,術前より輸血用血液が制限されていたが, CellSaverにより15,000mlが処理され,輸血量減少に対する効果は著明であった.

キーワード
自家血輸血装置, Cell Saver, 胸・胸腹大動脈瘤


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