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日外会誌. 88(11): 1604-1618, 1987


原著

肝部分切除後の脾腫に関する実験的研究

大阪市立大学 医学部第1外科学教室(指導:梅山 馨教授)

鬼頭 秀樹

(昭和62年1月5日受付)

I.内容要旨
肝臓と脾臓は,発生学的にも,また網内系臓器としても密接な相関関係にあり,肝部分切除後においてもしばしば脾腫がみられる.かかる脾腫は一時的な門脈圧上昇によるとの説もあるが,脾細胞のDNA合成の亢進がみられるとの報告もある.そこで著者は70%肝切除ラットの肝切後の脾腫について,形態学的,機能的に検討し,以下の成績を得た.
1.ラット体重当り脾重量は,肝切後漸増し7日目,10日目で最高に達し,14日目でも高値を示した.一方門脈圧は肝切後1日目より上昇して,3日目で最高値となつた後下降し,両者の間に相関関係は認められなかつた.
2.脾組織構造の形態学的計測では,肝切後1~3日目に白脾髄の,2~14日目で濾胞辺縁帯の増大傾向がみられ,赤脾髄は相対的に縮小し,うつ血脾の所見も認められなかつた.
3.脾細胞DNAへの3H-thymidineのとりこみは肝切後1日目より有意に増加し,7日目で最高となつた.オートラジオグラフィーで解析すると,白脾髄,濾胞辺縁帯,赤脾髄のいずれでも標識細胞は主として大型単核細胞であり,肝切後7日目までlabeling indexが漸増した.
4.赤脾髄の墨粒貧食マクロファージ,濾胞辺縁帯の内因性ペルオキシダーゼ陽性マクロファージはいずれも肝切後3日目に増加したが,7日目には正常ラットと差はなかつた.
5.脾内T,Bリンパ球をモノクローナル抗体を用いた酵素抗体法で検討すると.いずれも肝切後に増生が認められ,術後1日目,3日目にはT細胞領域が優位であつたが,7日目にはB細胞領域が優位となつた.また濾胞辺縁帯にはB細胞が多く存在し,7日目で増加が認められた.
以上の成績より,肝部分切除後にみられる脾腫には,門脈圧上昇によるうつ血やマクロファージの増加のみでなく,リンパ球の分裂増殖が関与していると推測された.

キーワード
肝脾相関, 肝部分切除, 肝再生, 脾腫, モノクローナル抗体


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