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日外会誌. 88(10): 1479-1484, 1987


原著

腹部大動脈瘤手術における術後合併症の検討
-特に術後腎機能障害に関与する因子について-

大阪府立病院 心臓センター

岩瀬 和裕 , 大西 健二 , 小林 順二郎 , 西村 元延 , 黒田 修 , 小林 芳夫

(昭和61年12月16日受付)

I.内容要旨
腹部大動脈瘤は,その発生原因が動脈硬化性である事,及び高齢者に多い事より,他臓器の動脈硬化性病変を合併している事が多い.その為,本症の手術に際しては,術後合併症,特に術後腎機能障害に対して厳重な注意が必要である.
そこで,過去46例の腹部大動脈瘤手術症例について,術後合併症に関して検討し,特に,術前術中諸因子が術後腎機能障害に及ぼす影響について調べた.術後腎機能低下は,非破裂性症例では34例中6例(17.6%)に認められ,破裂性症例では12例中9例(75%)に認められた.透析を必要とした腎不全は,非破裂性症例では1例(2.9%),破裂性症例では4例(33.3%)に認められた.術前評価が可能であつた非破裂性症例34例を術後腎機能低下⊕群と⊖群に分けると,年齢,性別,術前血清Crn値,術前Ccr値,降圧剤服用の有無糖尿病の有無術中大動脈遮断時間,出血量,輸血量には差がなかつた.しかし,術後腎機能低下⊕群では,術前に高血圧を認めた症例が多かつた.
又,術前高血圧コントロールの状態から見た術後腎機能低下の発生頻度を検討した所,以下の結果を得た.①降圧剤を服用してもなお高血圧を認めた症例では,術後腎機能低下は4/5例(80%)に認められた.②降圧剤を服用しなくても血圧が正常であつた症例20例では,術後腎機能低下は全く認められなかつた.③降圧剤を服用する事によつて血圧が正常にコントロールされていた症例では,術後腎機能低下は1/7例(14.3%)に認められたのみであつた.
これらの結果より,術前高血圧を有する症例では,術後腎機能低下の発生に関して充分な注意が必要であると考えられた.又,時間の許される待期的手術においては,術前の血圧コントロールも,術後腎機能低下予防の一助となりうる可能性が示唆された.

キーワード
腹部大動脈瘤, 術後腎機能障害, 高血圧, 術前血圧コントロール


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