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日外会誌. 87(11): 1474-1479, 1986


原著

左冠動脈重症病変に対する A-C バイパス術後左室機能の変化と予後に関する検討
-非梗塞および梗塞例の比較-

土浦協同病院 心臓血管外科

長岡 秀郎 , 印南 隆一 , 荒井 裕国 , 伊藤 金一 , 登内 真

(昭和61年2月26日受付)

I.内容要旨
左冠動脈主幹部(LMT)狭窄8例および左前下行枝(LAD)と回旋枝の主要分枝前中枢側に狭窄を有する,所謂Left Main Equivalent(LME)17例計25例に対してA-Cバイパス術を行い,手術死2例をみたが,平均3年5ヵ月の追跡で遠隔死はみていない.生存23例中手術前後で左室機能評価を行い得たのは21例であり,うち1例に術後グラフト閉塞を認めた.グラフト開存を得た20例中10例は術前貫壁性梗塞既往例で,他の10例は非既往例であつた.20例全例でLADへの血行再建は完全に行われた.これらにつき以下の評価を行つた.非梗塞例では各左室機能パラメーターはすべて術後有意改善を示した.梗塞例では心係数,左室拡張終期圧およびMeanVcfは有意改善をみなかつたが,駆出率は術前0.53±0.07から術後0.67±0.04(p<0.005),左室収縮期・圧/容量比は術前1.85±0.66から術後2.89±1.16(p<0.05)でともに有意増加を示した.左冠壁部分収縮率は両群ともに前壁,心尖で術後有意増加をみた.後下壁は有意増加をみなかつた.グラフト閉塞の1例では心係数以外の各パラメーターは悪化を示し,前壁部分収縮率も低下した.前壁部分収縮率が正常対照例の下限(30%)以下例の左室壁部分収縮率は非梗塞例(n=6),前壁梗塞例(n=7)ともに前壁,心尖で術後有意改善を示した.
術後の狭心痛残存は梗塞例の1例に認め,消失率は95.0%を示し,両群において術前NYHA IIIないしIV度のものが術後はIないしII度に改善された.また術後8年のactuarial survival rateは91.0%と良好であつた.
以上により,LMTおよびLME病変例に対するA-Cバイパス術は梗塞発症前に行うのが理想的であるが,梗塞既往例においてもLADへの血行再建が確保されれば,術後左室機能は改善し良好な予後が得られることが判明した.

キーワード
左冠動脈重症病変, 左冠動脈主幹部狭窄, Left Main Equivalent, 左室機能


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