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日外会誌. 87(11): 1461-1473, 1986


原著

特発性門脈圧亢進症の成因に関する研究
-本症脾による遷延感作ウサギの成績を中心に-

大阪市立大学 医学部第1外科(指導:梅山 馨教授)

石川 哲郎

(昭和61年2月4日受付)

I.内容要旨
特発性門脈圧充進症(以下IPH)の成因に関しては種々論じられているが,いまだ明らかにされていない.今回著者らはIPH脾の20%上清液を,Freund’s complete adjuvant(FCA)とともにウサギに遷延感作することによつてIPHの実験モデルの作成を試み,以下の成績を得た.
1)100日以上の感作ウサ物24羽中19羽(79.2%)に175mmH2O以上の門脈圧亢進がみられ,最高228mmH2Oを示した.2)脾腫は全例に発現し,最高8.0gを示した.3)末梢血液像では,感作短期より白血球数が,感作中期より赤血球数が漸次減少傾向を示した.4)感作ウサギの一部に,抗平滑筋抗体,抗DNA抗体,抗甲状腺マイクロゾーム抗体などの自己抗体が証明された.5)組織像では,脾は100日以内の感作ウサギでは主としてうつ血,脾炎像を呈し,以後感作期間の進行とともに濾胞および髄索の線維増殖と洞増殖がみられた.一方,肝では短期感作ですでにグリソン鞘を中心に小円形細胞浸潤,軽度の線維化がみられ,胆管周囲ならびに,胆管上皮内への細胞浸潤がみられるものもあつた.100日以上の感作ウサギでも同様の変化がやや強くみられたが,いずれも肝線維症の程度にとどまつた.胆管周囲の線維化は感作の進行とともに増強し,上皮の多層化もみられた.しかし,上皮の破壊や消失は認められなかつた.6)臨床的にIPH 25例での抗甲状腺抗体は9例(36%)に証明された.また,肝の組織所見とくに胆管病変は20例(80%)にみられ,そのうち胆管周囲の線維化と細胞浸潤が16例,胆管上皮の配列の不整や多層化が18例に,また,少数例には上皮内への細胞浸潤や胆管周囲の浮腫も観察された.
以上,IPH脾遷延感作ウサギでの実験成績は種々の点でIPHの臨床例と多くの共通点を有し,本症の成因に免疫学的機序の関与が強く示唆された.

キーワード
特発性門脈圧亢進症, 実験的門脈圧亢進症, 遷延感作, 臓器炎, 自己抗体


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