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日外会誌. 87(11): 1414-1421, 1986


原著

ストレス潰瘍の発生機序に関する実験的研究
-とくに胃粘膜PGE2の変動について-

神戸大学 医学部第1外科

林 民樹 , 裏川 公章 , 斉藤 洋一

(昭和61年2月27日受付)

I.内容要旨
ストレス潰瘍発生時の胃粘膜prostaglandin(PGE2)の変動について胃壁血流量との関連より検討し,さらにPGE2,2’-Carboxymethoxy-4,4’-bis(3-methyl-2 butenyloxy)chalcone(以下SU-88)を投与した場合の予防効果についても実験的に検討した.実験は体重250g前後のWistar系雄性ラットを用い,対照群,迷切群に水浸拘束ストレスを負荷して行い,以下の成績を得た.
1.対照群に水浸拘束ストレスを負荷すると胃壁血流は2時間後に約50%減と著明な減少を示し,この時期に一致して胃粘膜PGE2量は負荷前値より約32%の減少を認め,潰瘍指数は上昇した.一方,迷切群では負荷後の胃壁血流減少と胃粘膜PGE2の低下は対照群よりも少なく,潰瘍指数は低値であつた.
2.迷走神経を遮断した迷切群,アトロピン群の胃粘膜PGE2量は対照群に比較して減少し,逆にベタネコールで迷走神経を刺激した群では増加した.
3.24ml/kg脱血群,水浸拘束ストレス群では胃粘膜PGE2合成能が低下しており,この低下は胃壁血流減少によるhypoxiaが関与していると考えられた.
4.PGE2,SU-88をストレス負荷前に投与すると,胃粘膜PGE2量と胃壁血流の減少は抑制され,潰瘍指数の上昇も低下した.
以上より,ストレス負荷後の胃粘膜PGE2量の減少はストレス潰瘍発生の一因子と考えられ,この減少は胃壁血流低下によるhypoxiaのためにPGE2合成能が低下したためと推測された.さらに迷切はストレス負荷後の胃壁血流の低下を抑制することによりPGE2の低下を抑え,潰瘍発生予防に有効であると考えられた.

キーワード
ストレス潰瘍, 胃粘膜PGE2, 胃壁血流, 迷走神経切離術


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